規則の守護者

茜の頭へ、手が置かれる。

暖かい、手だった。


「……やめて下さいよ、高井さん。

僕は子供じゃないんですから」

「それもそうね。

失礼したわ」


上から降ってきた声は、どこまでも平坦。

泣き濡れた視界では、瑞緒の表情など見定められない。

ただ、彼女が、熱心にいじっていたはずの銃を持っていないことは分かった。


両手で差し出されたハンカチを受け取り、茜は目元をぬぐう。

柔らかかった。
僅かに手の体温が残っている。


「……僕は、悪事が許せないんです。

犯罪や、規則違反もです。
それの犠牲になる人をなくしたい。

だから僕は、監視者を志望したんです」


そう、と瑞緒は応えた。
椅子へ戻っても、銃を取る様子はない。


「そのハンカチ、あげるわ。

私よりも、あなたの方が必要でしょうから」