ばきっ……っ!
重い拳が、ヒトを殴る音がした。
狼の姿だった星羅がヒューマンアウトし、服を身につけて、早々。
お父さんに殴られたんだ。
時刻は、真夜中少し前。
ビッグワールドへ続くフェアリーランドの大扉が、その雄姿を見せている広場の前、だった。
異常気象による落雷と突発的な地震で、一時的にキングダムリゾートに足止めをくった……
……ってことになっているけれど、本当は生贄になりそこなったお客さん全員が、ほとんど無傷で帰り。
ビッグワールドに帰るヒトと、こっち側に残るヒトビトを分け終わる寸前のことだった。
美有希のフルメタル家当主就任式に出席するヒトと、こちらに残って後始末する組わけは難しい。
「ハンドが、こっちに残るの?」
美有希の報告に、元の姿に戻ったわたしは、驚いて聞き返した。
「でも、ここでビッグワールドに帰れなかったら一年間、まるきり会えないんでしょう?
美有希の就任式にも出られないってことじゃない!
いいの? ハンドは美有希の腹心だし……」
……好きなヒト、じゃない。
なんて、そんな言葉を呑みこんだわたしに、美有希は大したことじゃないわ、って笑った。
「真衣が覇王になっちゃった時、元に戻せるのが、今の所、ハンドと父上とゼギアスフェルさまだけじゃない。
父上が今年度限定で、ビッグワールドに戻るのなら。
真衣の姿を変えられるヒトが、ゼギアスフェルさまだけでは、何かあった時、困るでしょう?
真衣が覇王になったまま、誰も元に戻せずに
来年扉を開けたらこっちの世界がなくなっていた、ってことになったら、大変だわ!」
なんて、美有希は恐ろしいことをさらりと言って笑った。
「別にずーーっと離れているわけじゃなく、たった一年だし。
次の年に大扉が開いてからは、ずっと一緒だもん。
なんと言っても、はじめて父上と一緒に暮らすんだもの!
ちょっとわくわくしてる」
ちょっとどころか、ずいぶん楽しそうだ。
その様子を見て、わたしは胸が痛んだ。
「……ごめんね?
わたし、ずーーっとお父さん取っちゃってて」
しかも、一年間が過ぎたら、またお父さんはこっちに戻って来るに違いない。