『……くそ!
 血と、ゼギアスフェルの臭(にお)いがする……っ!
 我がヴェリネルラが、汚された!!
 ゼギアスフェルよ!
 あとで、必ず殺してやるからな!!』

 そんな。

 いかにも憎々しげに吐き捨てられた言葉で、目が覚めた。

 白薔薇宮殿の北塔、てっぺん。

 わたしの居るゲストルームに射す陽はとっくに落ちて。

 月光が冴え冴えと蒼く輝く夜になっていた。

 そして。

 眠りから覚めた後の、ぼんやりとした視力で辺りを見回せば。

 月の光に照らされた蒼い闇のバルコニーから、一匹の大きな狼が、のっそりと入ってくる所だったんだ。

 でも!

 その狼……星羅じゃない!

 だって、星羅は、金色の毛皮の狼なのに、この狼はだいぶ黒いもの……っ!

 そう。

 これは、フェアリーランドのメインキャラクターの狼に似ている気がする。

 もしかして……

『ビッグワールドの王……さ……ま?』

 考えたくない想像に『お願い、違うって言って』って祈ったのに。

 灰色狼は、まるで、人間みたいにほほ笑んだ。

『……おお、我がヴェリネルラ。
 この姿は見せて無かったのに、一目で見破るとは嬉しいのう。
 愛しき女(ひと)よ。
 我が、少し目を離した隙に、ゼギアスフェルに無理やり乱暴されたのではないか?
 こんなに弱っていると言うのに、男の風上にも置けぬ奴め!
 怖かったろう?
 辛かったろう?
 我が来たからには、もう、大丈夫だ。
 たかが一度や二度、汚されたからとて、そなたを嫌いになど、ならぬよ。
 なにしろ、そなたは、命を賭け。
 身を呈(てい)して、ゼギアスフェルの剣から我を守ってくれた、一輪の花、なのだから』

 ……ウソ。

 きっと、ビッグワールドに連れて行かれた時のコトを言ってるんだろうけど!

 王さま、何か勘違いしてる……!

 わたしは、ただ。

 星羅が暗殺者になるのだけはイヤで、頑張っただけなのに。

 それに。

 星羅にだって、乱暴なんてされた覚えはないもんっっ!

 ……って、そこまで考えてはっとする。

 なんで、炎の扉の向こうに置いてきたはずの王さまが、こんな所にいるのよっっ!