「本当だったら、
すごいことだぞ」
「あら、信じてくれないの」
「あのミュシャ文字だぞ。俺がミュシャの挨拶一つ知るために、どれだけ駆けずりまわったことか」
「言ったでしょう。私は、あなたより、ずっと前から準備してきたのよ」
「それでも、何百年かけて研究されてもはかり知れないものなのに……」
私の言葉はエンへの疑念をはらんだまま、つんざく笛の音にかき消される。
「おい、お前!
笑顔をたやしたな!」
黒いこん棒を手にした僧侶が、畑に忍び込んだ獣を捕まえるように、笑い転げる人の群れから男を一人ひっぱり出す。
足をつかまれて道の真ん中に放り出された男は、背中を丸めてひれ伏し、こん棒を振り上げる僧侶に懇願する。
「昨日から、しゃっくりが止まらないんでさあ。だから笑いが途切れちまうんです。
ええ、ええ、そんなつもりはこれっぽっちも無いしだいで……」


