「あら、あなた。良かった、無事で」
「それはこっちの台詞だ。君は何ともないのかい?」
「うん。砂の上に落ちたからかしら、怪我はなかったわ」
エンは列車で会ったころと同じ姿で、アリジゴクの食事を眺めていた。
手に銃は無い。
珊瑚を積んだのは彼女だろう。彼女は明言しなかったけれど、私は漠然とそう思い、そしてやはり尋ねることはしなかった。
洞穴で目を覚ましたとき、そばにバックパックと相棒が置いてあった。それだけで充分だった。
「しかし無茶をしたな。砂にのまれるところだった」
「人は、流れる砂に沈まないものよ。生きているうちに大地へ還るには、汚れすぎているから。誰かが言っていたわ」
天井から垂れる光の帯の下、虫の食事が終わるまで、エンと私は砂山に腰掛けていた。