「来るわ、耳を塞いで」



ミュシャのアリジゴクは珊瑚に似た樹木を主食としていて、この珊瑚樹の森に罠をつくり、文字通り根こそぎ平らげる。

その際、同時に大量の砂も口に流れこむため、定期的に吐き出す。
それはすさまじい量と勢いで、先述の通り、遠くからでも砂の柱が確認できるほどだ。

音も生半可ではない。
近くともなれば、耳を塞いでも危ない。全身の骨を震わせて、脳を砂で洗われているような感覚をおぼえる。


「いやはや、まったく、はた迷惑な虫で。一張羅が台なしでございます」

「ちくしょう、あんなのに食われるのか」

「あきらめないでちょうだい。せっかく私の……また来るわ」





 エンの的確な洞察力によって、私は鼓膜を破られることを避けることができた。

もっとも、ささいな悪あがきに過ぎなかったが。