船の舵をとる青年はエンと面識があるようで、エンと対等、あるいは下の立場の言葉を遣った。
彼の顔に卑屈なものは見られず、むしろ楽しんでいるようだった。
放浪する少女と、入口の曖昧な砂漠にひょっこりと現れた青年。
一目には、二人の関係はとても複雑に思えた。
「いま下で起きているのが何なの
か、教えてもらえるかしら」
「渦です。でっかい砂の渦。あたりの珊瑚樹を飲み込んで、いっそう広がってらっしゃる。
際限も無く、節操も無く、痴れ痴れと。
いかにも、宇宙のどこぞにあるという無明の天体のようすではございませんか」
「……それで、渦の原因は」
「虫ですな」
青年は、渦の中心に化け物が潜んでいると言い、それはカゲロウの幼虫だと言った。
「中には、幼少期に地に潜み、罠を張り、他の生き物を食らう種類がおりまして。
罠というのがちょうど、すり鉢状になっていて、やつらはその中心で、獲物が転がりこんでくるのを待つわけです」


