「いったい空にはいくつ太陽があるのか、疑わしくなります」
「まったく。さっきまで夜だったってのに、今じゃこの通りだものな」
「後で、マクラーウィンさんのお抱え魔術師に水を貰わないと。魔法の水は酷い味だが、この暑さでは贅沢は言えんな」
目を開けると私は、また白昼の砂漠を歩いていた。
砂をえぐる足音と話し声が、立体感の希薄な空と砂漠に、奇妙な奥行きを与えていた。
隣にはエンの姿があった。
「やっと起きた」
「……ということは、俺は寝てたのかい?」
混乱で朦朧としたまま、私は彼女と話した。
「迷っていたのよ。私が無理に引っ張ったのが悪かったみたい。飛び方を間違えると、変なところに着地してしまうの」
「誰かと話していた気がするんだが……」
「たぶん、失敗した人たちね。ミュシャへ至る途中で挫折した」
私は亡霊やら怨霊やらを連想したが、エンはこれをきっぱりと否定した。
「死人じゃないわ。ただ、『恥』が歩き回っているの。自分の挫折を認めたくないあまり、目を背けて今だにミュシャ探求をしているつもりになってる。
あれらは特に他人を馬鹿にしたがるわ。他人をこき下ろすことで、自分を成功者のように錯覚しているのね」


