「あの…その……」

 なのに彼女は、離そうとしたカイトの手を追いかけた。

 そっと片方の手を、両手で優しく捕まえると、自分の身体に回すように動かす。

 ズキンッ。

 彼の心臓のことを、本当にメイは知っているのか。

 こんなに、まるで自分からカイトを求めるような行動に出られると、覚えたことのないような痛みに襲われるのだ。

 愛しくて、しょうがない。

「メイ…」

 ぎゅっと、もっと抱き寄せる。

 その濡れた髪の匂いに、頬を押しつけるように。

「きゃっ!」

 しかし。

 いきなり、彼女が驚いた声をあげた。

 腕の中の存在に、トランスが入りかけたカイトは、それで無理矢理現実に引き戻された。

 自分が、何かイヤなことでもしたのかと思ったのだ。

 そうではなかった。

 彼女は、湯の中に沈んでいた、手をばしゃんと空中に取り出したのだ。

 そして。

「よかったぁ…」

 本当に嬉しそうな声で、小さくつぶやく。

 彼女の視線の先は、右手だった。

 たとえ、後ろから抱きしめて目の動きが分からなくても、それだけははっきり分かった。

 右の手のひらには。

 へたくそな数字が、並んでいたのだった。


 それが一体何で、なおかつ誰が書いたかなんて―― 考えるまでもなかった。