間もなくして、結衣の前に青いスポーツカーが停まった。ツインカムターボで馬力があり、俺も欲しいのだが、高くて手が出ない車が。


 すると結衣は腰を屈め、助手席側から運転手に笑みを向け、その車のドアを開けて中へ乗り込んだ。


 クソッ!


 俺は喫茶店を飛び出したが、あっという間にその車は走り去ってしまった。甲高いエキゾーストノートを残して。


 運転してたのは一昨日の晩に夫婦が言ってた通り、茶髪の若い男だった。チラッとしか見えなかったが、イケメンではあるが、いかにもチャラそうな男だった。あんな高価な車に乗ってる事から、いいところの坊ちゃんか、あるいはモデルかホスト、といったところだろうか……


 それだけでも十分腹が立つが、俺が一番気に入らないのは、結衣の表情だ。一瞬の事ではあったが、結衣が男に向けた笑顔は、とても明るく、いかにも嬉しそうだった。

 あんな顔、一度でも俺に見せた事があっただろうか……