西の塔に酉

「は」

 と、沈黙を蹴破ったのはリュシアンだ。続けて、破裂音にも似た笑い声を上げる。

「ハハッ! それでこそロヴィーサだ。その目だ……」

 リュシアンは、ロヴィーサの頬に手を伸ばした。

 胸をなで下ろすアロワを尻目に、ロヴィーサはあからさまに眉をひそめる。

 指先が触れる。

「私は、そなたをひとめ見たときから、ずっと長い間、その目に恋い焦がれていた」

 指先は、耳へうわずり、手のひらが、頬をおおう。鍬の、剣の、まめがない手だ。美しい手だ。

 そういうことなんだよ、ロヴィ。

 アロワは、ため息をかみ殺す。

 所詮は、世間知らずの王女様だ。

 世間を知らないまま、ここまで年を重ねてしまったこの姫君には……。