西の塔に酉

 だが、しかし。

「……ああ、そうなのか」

 まったく意に介していないお方が……。

「え? ええ……そう、ですわ」

「そうかそうか。ははは」

「ふふふ……」

 と、ロヴィーサは口元を手で隠しつつ――。

 ロヴィ……こ、こっち見んな、とばかりにアロワは目を逸らす。一介の騎士に助けを求めないでくれ。

 ひとしきり奇妙な笑いが浮遊し、落ち着いたところで、ロヴィーサは一変、目を細める。

「それで、ですわ。東に迂回して、リレリラのすぐ南に駐屯することをお勧めしますわ。そこでしたら水路を使っての――」

 リレリラ……?

「リレリラ?」リュシュアンの目つき鋭くとがる。「なにを言い出すかと思えば、ロヴィーサ。リレリアの女王は――」

 強大国を統べるものとしての目が、息をつくと同時に緩まる。

「――女のそなたに政治の話をしてもしかたがないが、リレリアは完全な中立国であって、こと、リレリアを治める女王は偏屈な変わり者でな」

「偏屈な変わ……!」

 ロヴィーサは、目を見開いて絶句する。

「そうだ。女が国を治めていくには、そうでなければ成り立たんのかもしれないが、それにしても――」

「陛下」ロヴィーサは声色低く国王の言葉を遮った。「ご撤回あそばされませ」

「ロヴィ!」

 アロワが咄嗟に彼女を制すが、時すでに遅し。

「……なんと?」

「ご撤回あそばされませ」

「ロヴィーサ姫! 撤回するのは君のほう――」

 アロワの咎めは、彼女の耳には届かない。

「まず、リレリア女王は誇り高き賢君にございます。そして、一国の王ともあるお方が、他国の王をそのような理由で蔑むのはいかがなものかと」

 ぴしゃり、と、ロヴィーサが言い放ったひとことに場の空気が一瞬にして凍りついた。