西の塔に酉

「では、あなた様はどうして……」

 アロワの喉から出てこられない、ここにいらっしゃったのですか、をロヴィーサは微笑んで察する。

「大変失礼な物言いかもしれませんが」ロヴィーサはひとこと断って、「ダヴィドにも利があるから、その背を差し出すのです」

「ダヴィド……?」

 首を傾げるリュシアンに、

「私の愛馬です」

 アロワは補足して、慎ましく佇むロヴィーサに目を眇める。

「とても聡く、なにより紳士ですわ」

 ロヴィーサは、ふふっ、といたずらっ子のように笑っているが、言っていることはどぎつい。

 祖国を、またその王女である自分をを飼い馬に例え、そして、ただの人質に非ず、と言外に匂わせているのだ。

 なんつう女……、とアロワが胸のうちで毒づく。自分のような下の者にならまだしも、アリとゾウほどの力の差がある国、またその最高権力者に喧嘩を売っているも同じ。

 しかも、これから夫になる王に、だ。正妻の座が約束されているならまだしも、王には第4王妃までいる。側室もごまんといるのだ。

 まして、彼女の祖国アムニールは大陸で一、二を争う弱小国――この王の声ひとつでこれからの待遇が変わってくるというに……この目だ。

 三十路手前の女がする目か。

 ロヴィーサは、不思議な色合いの瞳に、焦がすほどの情熱を閉じこめて、まっすぐリュシアンを見つめる。

 戦場でアロワは極まれにこの目と対峙する。そして必ず死闘になる。

 この目はまっすぐ自分を見つめる。しかし、この目が見据えているのは、己の決意。

 ロヴィーサの目は、まごうことなく、戦う者のそれだった。