西の塔に酉

「リュシアン陛下」ロヴィーサは一変して凛々しく顔を引き締める。「ハウンベルクへ進軍なさると小耳に挟んだのですが」

 リュシアンは目を見開き、2、3度まばたきを重ねた。ロヴィーサは、リュシアンの返事を待たずして続ける。

「その際、アムニールに駐屯地を、とお考えでしたら、およしになったほうがよろしいかと存じます。我がアムニールの地形はそれに不向きです」

 アムニールがいかに駐屯地に不適切であるか、詳細にかつ簡潔にロヴィーサは説明する。

「軍師、のようだな……」

 ほとんど目が点状態のリュシアンと対照的に、アロワは目を細める。ことさら王女様とは思えない。

 アロワがアムニールを直に見て「駐屯は無理だ」と下した理由にほぼ一致していた。

「……しかし」リュシアンはまだ正気に戻りきらない。「一昨年の情報では致命的という、その急斜面から続く細道はなかったはずだが」

 そう、とアロワは内心うなずく。その致命的な部分を見逃すはずがないのだ――あの男は。

「ええ。今年に入ってから大急ぎで“そう整備”してもらいましたの」

「今年に入ってから……」

 といえば、ちょうど、ラディナ大国とハウンベルクの間にきな臭さがただよいはじめたころだ。

 ロヴィーサは、ふふっ、と、いたずらっぽく笑った。

「わたくしの誕生日のお祝いに。大奮発して」