西の塔に酉

「ロヴィーサ!」

 前方から、声を上げながら駆け寄ってくるひとかげに、アロワは目を丸めた。

「へ、陛下!?」声も裏がえる。

「え、陛下!?」右に同じく。

 ロヴィーサは、ぱちぱちと、天然カールのまつげを叩き合わせる。記憶と違う
、とばかりになんども。

「ロヴィーサ、よくぞ参られた!」

「お久しうございます、陛下。このたびは、アムニール、そして、わたくしロヴィーサに――」

 と言い切るより前に、ロヴィーサは長い腕のなかに抱き込まれた。

「陛下!?」いきなりの包容に驚くも、まさか離せとは言えない。これがラディナの挨拶なんだと自分に言い聞かせて、「あ、ええと、このたびは、アムニール、そして、わたくしロヴィ――」

「ロヴィーサ。ああ、まさか本当に……夢のようだ。顔を見せてくれ」

「は、はは……」

 あのロヴィがひきつり笑いしてる! と、アロワは吹き出しそうになるが、かろうじてこらえる。

「陛下。わざわざいらっしゃられなくとも、陛下のもとへお連れいたしましたのに」

 が、置いてきぼり感が半端じゃなく、思わず口調にとげが生える。

「ああ、アロワ。ご苦労であった。報告はまたのちほど。下がってよいぞ」

 とげなんか関係ない! ってくらいの弾んだ声だ。

 ……だれだ、これ。

 アロワの知っている国王でないことは確かだ。

「ロヴィーサ。長旅で疲れただろう。中でゆるりとし――」

「いいえ、陛下」ロヴィーサは顔を上げてきっぱりと断る。「先に大切なお話がございます」

 綺麗に整ったその顔が火がついたように赤く染まる。そんなリュシアンを尻目に、ロヴィーサはアロワに向いた。

「アロワも同席なさって」