西の塔に酉

「そいじゃ、ひとつ手合わせ願えばよかったぜ」

「毎年ハウンベルクで剣の腕を競うお祭りがあるでしょう」

「優勝すると願いをひとつ叶えてもらえるってあれね」

「そう。あれで、負け知らずだったのよ」

「ん? 俺、14歳からこっちずっと優勝して――って」

「なら、それまでにやりあったことあったんじゃなくて? もっともケヴィンは17才で剣をペンに持ち替えちゃったけど」

 大陸一の騎士だと自負しているアロワが一度も勝てなかった相手、

「……ケヴィニジーリオ」

「そうそう! なんだ、知ってるじゃない。騎士のスカウトがうるさいからって最後の数年は偽名で出ていたのよ」

「ぎめ……そうか。騎士になってなかったのか。探しても見つからないはずだ」

 あの軽やかにも力強い剣さばきと、華麗な身のこなしをもつ男がまさか弱小国の宰相をしているだなんて誰も思うまい。

「しかしなんで。もったいないっつーか、惜しいっつーか」

「……そうね」

 アロワは、ダヴィドの首を撫でるロヴィーサの泣きそうな微笑みから目を離すことができなかった。