「そんな。それだったら、私のほうが謝らなくちゃ。ちゃんと日程をきかなくてごめんなさい」

「……え? ロビィなん――」

「私は大丈夫よ」ロヴィーサは窓から手を伸ばし、アロワが跨る彼の鼻先をくすぐる。「ダヴィド、良いこだから大人しくしててね」

 黒毛の駿馬、ダヴィドは小さく鼻を回し、ロヴィーサの手の甲に鼻をこすりつける。

「そう。賢いこ」

 言うやいなや、ロヴィーサは立ち上がって窓枠に足をかけた。

「は? え、や、ちょ……」

 アロワが言葉にならない言葉を言い終わらないうちに、ロヴィーサは窓枠を蹴った。蹴ってアロワの後ろに飛び乗って跨った。

「ロビィ!」

 ダヴィドがいななき、その場でギャロップを踏む。

 ロヴィーサはアロワの腰に腕を回し、

「ふふっ、ご機嫌麗しうムッシュ」

「麗しいわけあるかっ! ダヴィド! ダヴィド、どうどう」

 愛馬をいさめるアロワの手ごと手綱を握って、暴れ馬から逃れるように遠のいた人垣にロヴィーサはウインクする。

「お楽しみのところ、お邪魔いたしました。それではみなさま、引き続きよい一日を」

 ダヴィドの前足が上がった瞬間、ロヴィーサは手綱を強く引き、 

「ちょ! ロヴィ!」

 慌てふためくアロワをよそに、宙をかいていた前足が着地した瞬間、手綱をゆるめ、ダヴィドの横っ腹を蹴った。

 騎士と美女を背にのせた黒毛の駿馬は、一転して優美に門へかけていく。

 それまで唖然としていた人々は、馬の尾が門に消えたと同時にわきあがり、しばらくその騒ぎがやむことはなかった。