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 新しい妃の輿入れにあたって、ラディナ大国の城、及び後宮は上を下への大騒ぎだった。

 どこから聞きつけたのか、「世にも美しい王女」をひと目見ようと押しかけた城下町の人々で門前はごった返す。

 一方、王女を迎える後宮では、

「天蓋はもっと高いほうがいいな。それにかけるヴェールは……そう、それがいい。そこの、次の仕立て屋はまだか」

 と、国王自らドレスや調度品などを細かく指示するもんだから、侍女たちは急がなくていい用まで駆け足で済まさなければならない。

「なんの騒ぎですの」

 自室から出てきた妃のひとり、ウラに、

「初恋の方を妃に迎えるようですよ」

 と、第一王妃デルフィナは、国王リュシアンを面白そうに目を細めて見つめる。

 幾月も前に決まるこれまでの婚儀とちがい、3日前に「決まった」となんの前触れもなく国王の口から直接聞かされた。

「初恋の……」

 と押し黙るウラがリュシアンに送る視線は、デルフィナのそれとはまた違う。

「ふふ、陛下のあの張り切りようったら。国攻めとてああはなりませんわ」

「そう……ですね」

 相反する王妃らの前を、遣いの臣下が「陛下!」と小走りで横切る。

 臣下の耳打ちに、は、と息を吸いながら目を見開くリュシアンを見て、デルフィナはくすくすと漏れる口元を抑えた。
 
「どうやら愛しのロヴィーサ殿が参られたようね」