大切なもの

「俺の家、中1の夏休みから荒れ始めたんだ。
で、中2のトキに親が離婚した。俺は母親に引き取られたんだ。
母親が他の男と付き合い始めたころ…邪魔になったのかな。
俺は…捨てられた」

「っ、」

「ていうか、ばぁちゃんの家に預けられたんだ。
けど、さすがに中学生にもなっていたから、分った。
俺は、捨てられたんだ、裏切られたんだ――…って。
あ、今はばぁちゃんの家も出て、1人暮らししてんだ」

私は、かける言葉が見つからない。

「…それからだった。
誰も、信用できなくなった。
付き合っていた女は、信じていたのに…。
浮気されて、俺はまた裏切られたんだ――……」

野上くん、震えてる…?

「こんな目にあったから、女なんて嫌いになった。
わざと出す、甘く甲高い声。
嫌というほど香る、甘ったるい香水の香り。
外見しかみないとこ。
結局俺は、誰からも…愛されないんだって…っ…」

私は彼を、包み込むように抱きしめた。