『ゆうき…』
【あたしが彼の名前を呼ぶと、彼はあたしを強く抱きしめた】
『ねぇ…』
『な…に?』
『キス……していい?』
「杏理〜っ」
私の目の前で祐希は手をひらひらとさせている。
「あっ…ご、ごめん」
「本当に大丈夫?杏理さっきもボーっとしてたけど」
「うん。大丈夫だよ」
私の返事を聞くと、祐希は一瞬疑わしげな顔をしたが、歩きだした。
「さみーっ」
と言いながら、彼はマフラーを鞄から取り出して首に巻いている。
私は自分の頬が熱くなっていることを実感していた。
何で、主人公が好きになる男の子の名前が“ゆうき”のケータイ小説買っちゃったんだろ…。


