けど、私が必死でも相手は顔色一つ変えなかった。


「雛様。薺様が寂しがりますよ。遊びたいのに、と」

「え……?」


それどころか、手を払うような行為を相手はした。

宙に浮かせた手は行き場なく、見開いた目は相手を映すのみ。瞬きすらできなかった。

どうしてこの人は私を助けてくれないのか分からない。この家に、偉い人に仕えているのなら柊様の異常くらい知っている筈……。


「っ――!」


そうじゃない。知っているからこそ私を出そうとしないんだ。知っているならこの人も逃げ出す筈で、私も逃がしてくれる筈だ。

ここは、この空間は何もかもが普通じゃなかったんだ。常識は通用しない。