せめて吐きはすまいと口元を押さえる。だが、臭いが鼻について吐き気は一向に収まらない。

むしろ、徐々に上に競り上がってくる。

痛い痛い、目が痛い。痛い痛い、鼻が痛い。痛い痛い、喉が痛い。

限界を感じ、震える足で立ち上がろうとした。逃げようとした。

腐った死体だなんて初めて見るのに、こんな匂いを初めて嗅ぐのに耐えられるわけがない。

なのに、そこに迫る邪魔。障害。


「どうしたの?ほら、一緒に遊ぼうよ」


来るな。近づくな。

それでも近づいてくる畳を擦る音。胸元に抱き抱えた“人形”と共に目に映る赤い瞳。留まる事なく強くなる腐臭。

全てが塞き止めを外した。


「うぐっ…うぉぇ……――っ!」