首を振る。椿くんも首を振る。駄目。駄目。

私はもうどれだけ傷ついても大丈夫だから、椿くんが傷つく必要なんてない。一度で十分だよ。だから。


「雛を置いてなんて出来ない!」


ダメ。離して。今逃げて。これは算段。


「っ――!っ――!」


言いたいのに声が出ない。声帯が消えた。体感も消えた。

光景だけが頭に焼付いた。

子供が親に抱きつくかの如く突進する柊様。

勢いで前に倒れる椿くん。離れる手と手。古い床から飛び出た鋭い釘。

もう一度手を伸ばそうとしても、空気だけを掴んだ。