田辺さんは、特別変わった人じゃない。




人は、好きな人ができると悪魔にもなれる。








「そうか。俺がすぐに気付いていれば、お前もあんなことしなかっただろう。俺に思い出して欲しくて、いろんなことを頼んで来たんだな・・・・・・そんなこと知らなくて。ごめん」





「先生が悪いわけじゃない。私が間違ってるってことは最初からわかってる。奥さんにもひどいこといっぱいしたし、いじわるなこと言ったりもした。先生を独り占めしていることが許せなかった。ずっと一緒にいるんだから、少しくらい私に先生を貸してくれてもいいじゃんって・・・・・・思ったんだ」





そうなんだ・・・・・・




駅までの10分が、田辺さんにとっては、一生分くらいの重みがあるんだよね。




ふたりきりになりたかったんだね。







「俺の妻は、変なヤツでな。多分お前のその気持ちを知ったら、お前に同情して、俺を貸し出ししちゃうかもしれない。そんなヤツなんだよ・・・・・・」





「嘘だぁ。絶対貸してくれない」




「俺が選んだ女だぞぉ?わかってる?」






先生は甘い声でそう言った。





「そうだね。いい人だよね。ごめん」





田辺さんは穏やかにそう言った。