そう、思った、時だった。 手首に、ヒヤリと、冷たいものが、触れた。 …違う。 触れたんじゃ、ない。 …捕まれた、んだ。 「足、速いね。…桜木鈴乃、さん」 暗闇だから、顔は見えないけれど。 声は、男だ。 叫ぼうとした瞬間、口に布のようなものを押し付けられた。 薬品の匂いが、私の鼻を刺激する。 くらくらする頭の中、必死に抵抗して、布を離そうと試みるけれど、男の力に敵うわけがない。 そこで私は、意識を手放した―――………。