妖が跋扈し、人間はただただ彼らが行きすぎるのを怯えて待つしかない。


――そんな中、猫又が人間の女を先導して廊下を駆けてゆく姿を見て、百鬼たちが口々に猫又を非難した。


「猫又!人間を助けるとは何事だ!」


「お前たちの目は節穴にゃ!この子は息吹にゃ!」


自慢げに胸を張った猫又の言葉に、後ろから息を切らしながらついて来ていた息吹に皆の視線が集中し…


そして、あっという間に息吹は囲まれた。


「息吹!おお…こんなに大きくなって!儂を覚えているか!?」


「息吹、毎夜俺の背に乗せてやっていたのを覚えているか?」


「鵺さん…天狗さん…私を覚えてくれていて嬉しい!」


百鬼に囲まれ、顔見知りが沢山居て、懐かしさに目が霞んだが、息吹の目下の目的は…主さま。


「主さまを捜してるの。みんな、協力して!」


「主さまなら帝の寝所で暴れておったぞ。息吹、また後で会おうぞ!」


再び猫又に先導され、走って走って、皆に会えたことが嬉しくて感動して、そして青白い光が襖の隙間から洩れている部屋の前で猫又が立ち止まった。


「息吹、危ないから僕の後ろに隠れてるにゃ」


「うん。でも猫ちゃん…私、主さまに…」


――中から帝の怒号が聞こえた。


そしてその言葉に、身体が動かなくなった。



「お前が十六夜か。ここに乗り込んでくるほど息吹姫を愛しいと思っているのか?妖の分際で身に余るぞ!」


「…お前は息吹には好かれていない。それに気付かぬとは馬鹿にも程があるぞ」


「……十六夜、さん…?」



確か、主さまとは会ったことがあると言っていた。

では今この部屋の中には、主さまと十六夜が?


――ちりん。


鈴の音がした。

…十六夜を見たい。

主さまに会いたい。


――息吹はふらふらと襖の前に立つと、そっと開いた。


中は鬼火が飛び交い、そこに…


髪の長い男の後ろ姿と、憤怒の形相の帝が…対峙していた。



「お前の百鬼夜行も調伏してやる。十六夜、覚悟せい!」



…十六夜…?

その人は、主さまなのに――

その人は…主さまなのに…