薄い布を垂らした笠を被り、淡い緑の着物を着て庭に下りた息吹は牛車に乗ることを拒んだ。
「歩いて行きたいんです。駄目?」
「いや、いいよ。空には式を飛ばしてあるし、傍には十六夜がいるから安心しなさい」
主さまが上空を見上げると、確かに大きな鷲のような鳥が飛んでいて、晴明は少し浮足立った表情を浮かべている主さまに向き直るとくどくどと注意を始めた。
「息吹を1人にさせないこと、目を離さないこと、暴漢に襲われそうになった時は攻撃しても良いが命は奪わないこと、それに…」
「うるさい、わかっている」
小声で返事をすると、実は耳を澄まして2人の会話を聞いていた息吹がその場で小さく地団駄を踏んだ。
「今…少しだけ十六夜さんの声が聴こえたの。…聞き覚えのあるような、そうでないような…」
「…」
「十六夜は恥ずかしがり屋だから息吹とは話したくないそうだよ。だが必ず助けてくれるからね」
「はい」
好き放題言われ、だが息吹の前で晴明を罵倒するわけにもいかず、
ちょっと目を離した隙に屋敷の扉を潜って外へ出てしまった息吹を慌てて追いかけると晴明が忍び笑いを漏らした。
「帰りは牛車を迎えに行かせる。そなたはそのまま幽玄町へ戻ってもいいぞ」
鼻を鳴らして足早に息吹を追いかけると、通りの真ん中で立ち止まっていたので主さまが正面に回り込んだ。
「十六夜さん…居る?」
「…」
「これじゃ傍に居てくれるかわかんないから…これ持ってて」
「?」
袖から息吹が取り出したのは、小さな鈴の根付けだった。
小さな頃から鈴が好きで持ち歩いている癖もそのままで、主さまが懐かしんでいると息吹が腰を屈めて地面に鈴の根付を置いた。
「十六夜さんが持ってて。そうしてくれたら十六夜さんが傍に居てくれるってわかって安心するから」
むしたれのせいで息吹の表情はうっすらとしかわからなかったが、歩き出した隙に鈴の根付を拾い上げると懐に忍ばせた。
すると息吹が振り返り、先程地面に置いたはずの鈴の根付が消えていたので、ふわっと笑って歩き出す。
…まるで逢瀬のようだ。
そう気付いて、赤面した。
「歩いて行きたいんです。駄目?」
「いや、いいよ。空には式を飛ばしてあるし、傍には十六夜がいるから安心しなさい」
主さまが上空を見上げると、確かに大きな鷲のような鳥が飛んでいて、晴明は少し浮足立った表情を浮かべている主さまに向き直るとくどくどと注意を始めた。
「息吹を1人にさせないこと、目を離さないこと、暴漢に襲われそうになった時は攻撃しても良いが命は奪わないこと、それに…」
「うるさい、わかっている」
小声で返事をすると、実は耳を澄まして2人の会話を聞いていた息吹がその場で小さく地団駄を踏んだ。
「今…少しだけ十六夜さんの声が聴こえたの。…聞き覚えのあるような、そうでないような…」
「…」
「十六夜は恥ずかしがり屋だから息吹とは話したくないそうだよ。だが必ず助けてくれるからね」
「はい」
好き放題言われ、だが息吹の前で晴明を罵倒するわけにもいかず、
ちょっと目を離した隙に屋敷の扉を潜って外へ出てしまった息吹を慌てて追いかけると晴明が忍び笑いを漏らした。
「帰りは牛車を迎えに行かせる。そなたはそのまま幽玄町へ戻ってもいいぞ」
鼻を鳴らして足早に息吹を追いかけると、通りの真ん中で立ち止まっていたので主さまが正面に回り込んだ。
「十六夜さん…居る?」
「…」
「これじゃ傍に居てくれるかわかんないから…これ持ってて」
「?」
袖から息吹が取り出したのは、小さな鈴の根付けだった。
小さな頃から鈴が好きで持ち歩いている癖もそのままで、主さまが懐かしんでいると息吹が腰を屈めて地面に鈴の根付を置いた。
「十六夜さんが持ってて。そうしてくれたら十六夜さんが傍に居てくれるってわかって安心するから」
むしたれのせいで息吹の表情はうっすらとしかわからなかったが、歩き出した隙に鈴の根付を拾い上げると懐に忍ばせた。
すると息吹が振り返り、先程地面に置いたはずの鈴の根付が消えていたので、ふわっと笑って歩き出す。
…まるで逢瀬のようだ。
そう気付いて、赤面した。

