あろうことか…帝が息吹の手を引いて、御簾の中へと連れ込もうとした。
意図あってのことなのか…頬を上気させて、瞳を白黒させている息吹を中へと入れると御簾を下げて内侍にまた咎められる。
「帝!」
「もう良い、下がれ」
「帝…そちらの息吹姫は私が安部晴明よりお預かりしている大切な姫でございます。どうか…」
「いいから、下がれ」
――普段聞き分けの良い帝が意固地に拒否し、道長の説得さえも聞き入れず、主さまは共に御簾の中へと入りながら鞘からすらりと刃を抜いた。
…まずは息吹に触れている、その手からだ。
「そなたは本当に可愛らしく美しい。ここに居る女御や女房とは何か違う。どうだろうか、そなたもここに…」
「いやです!…絶対に…いやです…」
両手を握られたまま息吹が唇を噛み締めて俯き、晴明の屋敷で人とあまり接することなく生きてきた息吹にとっては、敵意をその身に受けること自体はじめてで、
ましてやこの目の前に居る帝には…全く興味がなかったのだから。
「息吹姫、せめて少しでも考えて…」
「いやです」
きっぱりと断ったが、さっきまで温厚で温和な笑みを浮かべていた男が急に顔を寄せてきたので、
身を捩ってそれから逃げると背中から抱きしめられて倒れ込みそうになった。
「…っ、い、十六夜さん!!」
――どくん、と血が騒いだと思ったら、半泣きの息吹の背中を抱きしめている帝の右手に、主さまの妖気を纏った刃が深く刻み込まれ、鮮血が吹き出した。
「…っ、妖か!誰か!」
「し、失礼いたします!」
脚を縺れさせながら立ち上がって後ずさりする息吹を未だ諦めていない帝は、左手で傷口を圧迫しながらも、歯を食いしばり、息吹を見つめた。
「そなたに憑いているその妖、私が払ってみせる。…明日また来なさい。これは命令だ」
「…失礼いたします…」
御簾を上げて飛び出すと道長が慌てて駆け寄ってきて、子供のように大きな胸に抱き着きながら震える手を道長の背中に回した。
「い、息吹…っ!」
「…早く屋敷へ…」
「う、うむ」
――人間が怖い。
…戻りたい。
意図あってのことなのか…頬を上気させて、瞳を白黒させている息吹を中へと入れると御簾を下げて内侍にまた咎められる。
「帝!」
「もう良い、下がれ」
「帝…そちらの息吹姫は私が安部晴明よりお預かりしている大切な姫でございます。どうか…」
「いいから、下がれ」
――普段聞き分けの良い帝が意固地に拒否し、道長の説得さえも聞き入れず、主さまは共に御簾の中へと入りながら鞘からすらりと刃を抜いた。
…まずは息吹に触れている、その手からだ。
「そなたは本当に可愛らしく美しい。ここに居る女御や女房とは何か違う。どうだろうか、そなたもここに…」
「いやです!…絶対に…いやです…」
両手を握られたまま息吹が唇を噛み締めて俯き、晴明の屋敷で人とあまり接することなく生きてきた息吹にとっては、敵意をその身に受けること自体はじめてで、
ましてやこの目の前に居る帝には…全く興味がなかったのだから。
「息吹姫、せめて少しでも考えて…」
「いやです」
きっぱりと断ったが、さっきまで温厚で温和な笑みを浮かべていた男が急に顔を寄せてきたので、
身を捩ってそれから逃げると背中から抱きしめられて倒れ込みそうになった。
「…っ、い、十六夜さん!!」
――どくん、と血が騒いだと思ったら、半泣きの息吹の背中を抱きしめている帝の右手に、主さまの妖気を纏った刃が深く刻み込まれ、鮮血が吹き出した。
「…っ、妖か!誰か!」
「し、失礼いたします!」
脚を縺れさせながら立ち上がって後ずさりする息吹を未だ諦めていない帝は、左手で傷口を圧迫しながらも、歯を食いしばり、息吹を見つめた。
「そなたに憑いているその妖、私が払ってみせる。…明日また来なさい。これは命令だ」
「…失礼いたします…」
御簾を上げて飛び出すと道長が慌てて駆け寄ってきて、子供のように大きな胸に抱き着きながら震える手を道長の背中に回した。
「い、息吹…っ!」
「…早く屋敷へ…」
「う、うむ」
――人間が怖い。
…戻りたい。

