御簾は上がっている。
その奥に座っているのは一条天皇で、温和で優しい顔立ちの帝はさっきからずっと黙っている息吹を見てていた。
「何か話をしてくれ」
「私は…父様のお屋敷しか知らないのでお話するようなことは何も」
嫌われても良い。だから早くここを立ち去りたい。
息吹の心の声は帝に聴こえていたらしく、、入り口に座って見張りをしている内侍や道長に目を遣った。
「晴明の屋敷に入れる人間は早々居ない。皆が言うのだが、何かに化かされて訳がわからなくなるというから」
「そんなことはありません。みんなとても良い妖で…」
「息吹姫は妖と共に育ったのか。だがあれらは大抵危険な存在だ。あまり馴れ合うのは良くないね」
…つい眉根を絞ってしまった息吹の表情に、帝が少々焦りながら腰を上げて御簾から出て来ると息吹の前に座る。
だが…息吹は顔を上げずに、妖を侮辱する帝の顔はもう見たくないと言わんばかりにずっと俯いていた。
「すまぬ、悪気はなかったのだ」
「…いいえ。…私はあなた様のお話相手をお勤めするには色々と勉強不足でございます。どうか今日はもう退出を…」
その時――ぎゅっと帝から両手を握られて反射的に顔を上げると、まだ20代前半と思しき若き帝は息吹の瞳をじっと見つめた。
「私はそなたが気に入ったのだ。もう絶対に機嫌が悪くなるようなことは申さぬ。だから明日もここに来てほしい」
「いえ、私はもうここには来たくありません…」
「ならば私が晴明の屋敷へ行く。それでよいか?」
「帝、なりませぬ!」
内侍が声を上げて注意したが、帝は息吹に夢中になっていて、その注意を聞かずに握る手に力を込めた。
「あそこは…晴明様の屋敷は私の家でもあります。あまり踏み入っては頂きたくありません」
険のこもった口調で責めると、帝はたいそう困った表情を浮かべた。
――それを見ていた主さまは先ほどから我が儘を言いっぱなしの帝に対して腹を立て捲っていて、
息吹を困らせている帝を一刀両断したかったのだが、それを何とか堪えていた。
「頼む、どうか」
「…」
断りきれない。
その奥に座っているのは一条天皇で、温和で優しい顔立ちの帝はさっきからずっと黙っている息吹を見てていた。
「何か話をしてくれ」
「私は…父様のお屋敷しか知らないのでお話するようなことは何も」
嫌われても良い。だから早くここを立ち去りたい。
息吹の心の声は帝に聴こえていたらしく、、入り口に座って見張りをしている内侍や道長に目を遣った。
「晴明の屋敷に入れる人間は早々居ない。皆が言うのだが、何かに化かされて訳がわからなくなるというから」
「そんなことはありません。みんなとても良い妖で…」
「息吹姫は妖と共に育ったのか。だがあれらは大抵危険な存在だ。あまり馴れ合うのは良くないね」
…つい眉根を絞ってしまった息吹の表情に、帝が少々焦りながら腰を上げて御簾から出て来ると息吹の前に座る。
だが…息吹は顔を上げずに、妖を侮辱する帝の顔はもう見たくないと言わんばかりにずっと俯いていた。
「すまぬ、悪気はなかったのだ」
「…いいえ。…私はあなた様のお話相手をお勤めするには色々と勉強不足でございます。どうか今日はもう退出を…」
その時――ぎゅっと帝から両手を握られて反射的に顔を上げると、まだ20代前半と思しき若き帝は息吹の瞳をじっと見つめた。
「私はそなたが気に入ったのだ。もう絶対に機嫌が悪くなるようなことは申さぬ。だから明日もここに来てほしい」
「いえ、私はもうここには来たくありません…」
「ならば私が晴明の屋敷へ行く。それでよいか?」
「帝、なりませぬ!」
内侍が声を上げて注意したが、帝は息吹に夢中になっていて、その注意を聞かずに握る手に力を込めた。
「あそこは…晴明様の屋敷は私の家でもあります。あまり踏み入っては頂きたくありません」
険のこもった口調で責めると、帝はたいそう困った表情を浮かべた。
――それを見ていた主さまは先ほどから我が儘を言いっぱなしの帝に対して腹を立て捲っていて、
息吹を困らせている帝を一刀両断したかったのだが、それを何とか堪えていた。
「頼む、どうか」
「…」
断りきれない。

