そして主さまの帰りを今か今かと待ち受けていた山姫と雪男は、足早に戻ってきた主さまに駆け寄った。
「主さま!」
「ああ。ちょっとこっちに来い」
朝はいつも不機嫌なのに、息吹と会ってきたせいか怒る様子もなく…
山姫と雪男が縁側に座ると、主さまは懐に手を入れて、息吹が描いた絵を取り出して2人に見せた。
「息吹が描いた。誰だかはわかるな?」
――山姫と雪男は、最初何が何だかわからない、という顔をしていたが…
みるみる表情が明るくなり、山姫は手で口を覆いながら目尻に涙を溜めた。
「あの子がこれを…!?」
「“これは母様”と言っていた」
墨で描かれただけのただの落書きだったが、息吹がまだこうして思ってくれることがあるということを知って、
山姫も雪男もつい和紙を握る手に力がこもってしまい、慌てて皺を手で伸ばしながら主さまに頭を下げる。
「ありがとうございます、私の宝にします!」
「俺はもう寝る。夜は百鬼夜行…そして朝は…」
そう言って寝室の中に入って行き、床に座ると2人には見せなかった最後の1枚を取り出して、描かれた笑顔の男の絵を眺めて…
笑っていた。
「下手くそめ。俺はもっといい男だぞ」
6年間音信不通だった息吹とまたこうして会えることが喜びだったが、だが明日から朝廷に通わなければならない息吹を守るため、主さまは無理矢理にでも眠りに落ちてゆく。
――その頃、晴明と道長を部屋へと招き入れた息吹は、描いたはずの絵が消えていて、首を傾げていた。
「息吹?」
「いえ、何でもありません。風に飛ばされたのかも」
「その…明日から帝の話し相手に朝廷に行かねばならぬが…帝をどう思った?好きになったか?」
どもりながらようやく聞きたいことを口にした道長に対し、息吹は墨などを片付けながら首を振った。
「好きとかそういうのは…。あそこにはもう行きたくないけれど、父様の立場もあるし頑張ります」
「私の立場とかはいいんだよ」
「いえ、いいんです。それに十六夜さんが守ってくれるから」
晴明が笑った。
主さまはよく健闘しているらしい。
「主さま!」
「ああ。ちょっとこっちに来い」
朝はいつも不機嫌なのに、息吹と会ってきたせいか怒る様子もなく…
山姫と雪男が縁側に座ると、主さまは懐に手を入れて、息吹が描いた絵を取り出して2人に見せた。
「息吹が描いた。誰だかはわかるな?」
――山姫と雪男は、最初何が何だかわからない、という顔をしていたが…
みるみる表情が明るくなり、山姫は手で口を覆いながら目尻に涙を溜めた。
「あの子がこれを…!?」
「“これは母様”と言っていた」
墨で描かれただけのただの落書きだったが、息吹がまだこうして思ってくれることがあるということを知って、
山姫も雪男もつい和紙を握る手に力がこもってしまい、慌てて皺を手で伸ばしながら主さまに頭を下げる。
「ありがとうございます、私の宝にします!」
「俺はもう寝る。夜は百鬼夜行…そして朝は…」
そう言って寝室の中に入って行き、床に座ると2人には見せなかった最後の1枚を取り出して、描かれた笑顔の男の絵を眺めて…
笑っていた。
「下手くそめ。俺はもっといい男だぞ」
6年間音信不通だった息吹とまたこうして会えることが喜びだったが、だが明日から朝廷に通わなければならない息吹を守るため、主さまは無理矢理にでも眠りに落ちてゆく。
――その頃、晴明と道長を部屋へと招き入れた息吹は、描いたはずの絵が消えていて、首を傾げていた。
「息吹?」
「いえ、何でもありません。風に飛ばされたのかも」
「その…明日から帝の話し相手に朝廷に行かねばならぬが…帝をどう思った?好きになったか?」
どもりながらようやく聞きたいことを口にした道長に対し、息吹は墨などを片付けながら首を振った。
「好きとかそういうのは…。あそこにはもう行きたくないけれど、父様の立場もあるし頑張ります」
「私の立場とかはいいんだよ」
「いえ、いいんです。それに十六夜さんが守ってくれるから」
晴明が笑った。
主さまはよく健闘しているらしい。

