主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

道長と晴明が他の部屋で控えていると…


内侍が明らかに困り顔をしていて、その後ろから息吹が扇子で顔を隠しながら現れた。


「戻りました…」


「お帰り。帝とは話ができたかい?」


「はい…。父様…私、先に戻りますね」


「?それはいいが…式を連れて行きなさい。後ですぐに私たちも戻るからね」


道長は息吹の可憐な姿にぽわんとしていたが、晴明は微細な息吹の変化にため息をつく。


「晴明様」


内侍がひそりと声をかけてきた。


外面が良く、しかも顔立ちの整った晴明が微笑を浮かべて先を促すと、内侍が顔を赤くしながら囁いた。


この晴明という男…帝にも頼られているため、女御や女房たちの評判がすこぶる良い。


そんな晴明が育てたという息吹に皆が興味津々だったが…


「妖憑きは困ります。帝には今後一切お会いしませんように」


「ああ、それは構わないが…帝が首を縦に振るかな」


――道長が息吹を牛車まで見送りに行き、そして帝に呼ばれた清明が帝の座す御所に入って行くと、


御簾は大きく裂けていて、文官たちが必死になって取り替えようとしていたところだった。


「これは私の式がご無礼を」


「いや、いい。晴明…そなたの養女は真に美しいな。どうだろうか、私の…」


「帝、なりませぬ」


内侍に厳しく咎められたが、帝は先ほどのように御簾から出てくるとすまし顔の晴明の前に座った。


「入内は難しいか?」


「そうですね、あの子は世間を知らず、男を知りませぬ。嫁がせるのはまだまだ先かと」


「そうか。では明日より毎日ここへ息吹姫を通わせてくれ。気に入ったのだ、いいだろう?」


…内心晴明が鼻で笑った。


実際、朝廷には何ら興味がなく、また妖狐の母を狩ったのもまた一条朝の仕業。


尻尾を隠して、言いなりになっているふりをしているだけ。


「では帰りましたら息吹に話してみましょう」


「頼んだぞ」


そして道長と合流した晴明は…笑いが止まらなかった。


「どうした?不気味だな」


「いやなに…ふふふ、面白いことになってきた」


いじわる晴明、再び。