翌朝…主さまの前には最高にいらつく光景が展開されていた。
「い、息吹、綺麗だぞ!その…着物が!」
束帯姿の道長がどもりながら息吹を誉めていた。
息吹は朱色の着物に金の刺繍をあしらった打掛を羽織り、髪を緩く結って、薄く化粧をしていた。
…もちろん美しいのは言うまでもないが、先程からこの道長という男が息吹の回りをぐるぐるしていて、それが主さまにとって目障りでしかない。
「道長、座りなさい。息吹、もう式はすぐ傍に居るからね。重々言っておくが話しかけても返事はしないよ」
「はい。でも道長様が居て下さるから大丈夫です」
かちんと来て、でれっとしている道長に殺気を叩き付けると、能天気に見えた男は腰に下げた太刀の鞘に手をかけた。
「今殺気が…」
「すまないね、私の式が少々悪戯をしたようだ。こら、駄目だよ」
姿を消した主さまの方に向かって晴明が怒ってみせた。
…が、今にも吹き出しそうな顔をしている。
文句のひとつでも言いたかったが息吹の前で喋るわけにもいかず、
用意された牛車に乗り込ませると主さまも気付かれないように同乗し、御所に向かって動き出した。
「父様、私はどうしたらいいの?」
「そなたは帝と少々言葉を交わすだけでいいだろう。出自を聞かれたら“晴明に拾われた”と言うんだよ」
「はい」
――改めてちょこんと座っている息吹を観察した。
…化粧をしているせいもあるが少し大人びて、紅を引いている唇は艶やかで可愛らしく…
帯の沢山ついた雅な扇子を広げるとそれで顔を隠して、晴明と遊び始めた。
「そうだよ息吹、その扇子で顔を隠すんだ。帝は御簾の中だからね、拝顔はできないだろうが、そなたも扇子で顔を隠しておきなさい」
「どんな方なの?」
「帝は恐れながら俺が親しくさせて頂いている方で、お優しく気性の穏やかな方だ。だから怖がる必要はないぞ」
ちらちらと息吹を盗み見しながら道長が説明して、
主さまは朝廷などに興味がないのでそれを頭に叩き込むと、再び息吹に視線を戻す。
…早く幽玄町に連れて帰りたい。
この想いを言える日は来るのだろうか。
「い、息吹、綺麗だぞ!その…着物が!」
束帯姿の道長がどもりながら息吹を誉めていた。
息吹は朱色の着物に金の刺繍をあしらった打掛を羽織り、髪を緩く結って、薄く化粧をしていた。
…もちろん美しいのは言うまでもないが、先程からこの道長という男が息吹の回りをぐるぐるしていて、それが主さまにとって目障りでしかない。
「道長、座りなさい。息吹、もう式はすぐ傍に居るからね。重々言っておくが話しかけても返事はしないよ」
「はい。でも道長様が居て下さるから大丈夫です」
かちんと来て、でれっとしている道長に殺気を叩き付けると、能天気に見えた男は腰に下げた太刀の鞘に手をかけた。
「今殺気が…」
「すまないね、私の式が少々悪戯をしたようだ。こら、駄目だよ」
姿を消した主さまの方に向かって晴明が怒ってみせた。
…が、今にも吹き出しそうな顔をしている。
文句のひとつでも言いたかったが息吹の前で喋るわけにもいかず、
用意された牛車に乗り込ませると主さまも気付かれないように同乗し、御所に向かって動き出した。
「父様、私はどうしたらいいの?」
「そなたは帝と少々言葉を交わすだけでいいだろう。出自を聞かれたら“晴明に拾われた”と言うんだよ」
「はい」
――改めてちょこんと座っている息吹を観察した。
…化粧をしているせいもあるが少し大人びて、紅を引いている唇は艶やかで可愛らしく…
帯の沢山ついた雅な扇子を広げるとそれで顔を隠して、晴明と遊び始めた。
「そうだよ息吹、その扇子で顔を隠すんだ。帝は御簾の中だからね、拝顔はできないだろうが、そなたも扇子で顔を隠しておきなさい」
「どんな方なの?」
「帝は恐れながら俺が親しくさせて頂いている方で、お優しく気性の穏やかな方だ。だから怖がる必要はないぞ」
ちらちらと息吹を盗み見しながら道長が説明して、
主さまは朝廷などに興味がないのでそれを頭に叩き込むと、再び息吹に視線を戻す。
…早く幽玄町に連れて帰りたい。
この想いを言える日は来るのだろうか。

