息吹は結界に包まれた部屋ですやすやと眠っていた。
――式神の童女が出て行き、2人きりになった主さまは枕元に座ると暗闇の中浮かび上がる息吹の白い顔に見入った。
幼い頃いつも腕に抱き着いて眠っていた癖が取れないのか、鳥か何かの羽を詰めた大きな袋を抱きしめて眠っていた。
長い睫毛が美しく、身を乗り出して顔を近付けると僅かに可憐な唇が開いた。
「息吹…」
もうどうしようもないほどに焦がれて、惹かれていってしまう。
こんなに綺麗になって、男が放っておくわけがないだろう。
今の今まで息吹が無傷なのは晴明がこの屋敷に閉じこめて育ててきたからだ。
…朝廷へ行ってしまえば下賎な輩が息吹をいやらしい目で見るだろう。
邪な思いで近付いて来て、純粋な息吹を言いくるめて怖い思いをさせるかもしれない。
「俺が守ってやる。お前の白い肌には絶対に誰にも触れさせはしない」
そっと長い指を伸ばして頬に触れようとして、だが躊躇して引っ込めた。
…触れない。
触ってしまえば、なし崩しにとんでもないことをしてしまいそうな気がして、腰を上げて部屋から出た。
「早かったな。息吹にやましいことをしたのではないだろうな?」
「うるさい、俺があれを育てたんだぞ、そんなことするわけが…」
「その割には顔が真っ赤なようだが?」
鋭い突っ込みを食らって腕で顔を隠しながら晴明から背を向けて座り、徳利から直接酒を喉に流し込んだ。
「あの子は私の娘であり、宝だ。いずれ道長に嫁がせたいが…最終的には息吹に決めさせる。そなたも候補に入りたいか?」
「抜かせ。晴明、息吹に近づく奴は問答無用で傷つけるがいいか」
「ああいいとも、その辺はどうにでもなる。妖に守られる姫、か。まあ道長はそんなことは気にしないだろうし…十六夜、頼んだよ」
“藤原道長に嫁がせたい”
晴明が再三そう口にする度にむかむかして、主さまは腰を上げて激しく晴明を見下ろしながら不遜な態度で徳利を投げつけた。
「朝、また来る。…息吹には俺の正体は明かすな」
「当然だとも。さあ早く帰ってよく寝ておけ。忙しい1日になる」
夜明けが待ち遠しい。
――式神の童女が出て行き、2人きりになった主さまは枕元に座ると暗闇の中浮かび上がる息吹の白い顔に見入った。
幼い頃いつも腕に抱き着いて眠っていた癖が取れないのか、鳥か何かの羽を詰めた大きな袋を抱きしめて眠っていた。
長い睫毛が美しく、身を乗り出して顔を近付けると僅かに可憐な唇が開いた。
「息吹…」
もうどうしようもないほどに焦がれて、惹かれていってしまう。
こんなに綺麗になって、男が放っておくわけがないだろう。
今の今まで息吹が無傷なのは晴明がこの屋敷に閉じこめて育ててきたからだ。
…朝廷へ行ってしまえば下賎な輩が息吹をいやらしい目で見るだろう。
邪な思いで近付いて来て、純粋な息吹を言いくるめて怖い思いをさせるかもしれない。
「俺が守ってやる。お前の白い肌には絶対に誰にも触れさせはしない」
そっと長い指を伸ばして頬に触れようとして、だが躊躇して引っ込めた。
…触れない。
触ってしまえば、なし崩しにとんでもないことをしてしまいそうな気がして、腰を上げて部屋から出た。
「早かったな。息吹にやましいことをしたのではないだろうな?」
「うるさい、俺があれを育てたんだぞ、そんなことするわけが…」
「その割には顔が真っ赤なようだが?」
鋭い突っ込みを食らって腕で顔を隠しながら晴明から背を向けて座り、徳利から直接酒を喉に流し込んだ。
「あの子は私の娘であり、宝だ。いずれ道長に嫁がせたいが…最終的には息吹に決めさせる。そなたも候補に入りたいか?」
「抜かせ。晴明、息吹に近づく奴は問答無用で傷つけるがいいか」
「ああいいとも、その辺はどうにでもなる。妖に守られる姫、か。まあ道長はそんなことは気にしないだろうし…十六夜、頼んだよ」
“藤原道長に嫁がせたい”
晴明が再三そう口にする度にむかむかして、主さまは腰を上げて激しく晴明を見下ろしながら不遜な態度で徳利を投げつけた。
「朝、また来る。…息吹には俺の正体は明かすな」
「当然だとも。さあ早く帰ってよく寝ておけ。忙しい1日になる」
夜明けが待ち遠しい。

