主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

夜になってようやく落ち着いた晴明と息吹は共に夕餉を摂り、部屋の隅に積まれた嫁入り道具を見て背筋を正すと晴明に向き直った。


「父様」


「ん、なんだい?」


「私が幸せに暮らして行けたのは、父様のおかげです。父様から連れ出された時は本当に怖くて悲しくて…毎日泣いてたけど、父様が私に教養を身に付けさせてくれて可愛がってくれたから、私…」


「息吹…しんみりする話はよそう。それに私は十六夜をいびりに足しげく幽玄町へ通うつもりだし、そなたが十六夜の屋敷に住むということ以外はほとんど変わらぬのだから。時々山姫を借りるが、それ位は許してもらおう」


晴れて無事に夫婦となった晴明と山姫の新婚生活は、ここで始まる。

ただし主さまたちが百鬼夜行に出てしまう夜は屋敷を守らなくてはならないので留守にするが、彼らが一緒に居られるのは朝から夕方までだ。


「早く父様と母様の赤ちゃんを見たいな」


「そうだねえ、私にはすでに息吹という愛娘が1人居るし、子を作るつもりは実はないのだよ。いつか気が変わるかもしれぬが、今はこれでいい。息吹、膝を借りてもいいかい?」


「はい」


ごろりと寝転がって息吹に膝枕をしてもらった晴明は、庭の草を踏む音に耳を傾けて瞳を閉じた。


「親子水入らずの邪魔をしに来たか」


「いやなに、朝方邪魔をしに行こうと決めていたんだが、あの子がぐずってしまって行けなかった。息吹、幽玄町と平安町が祭りのようになっていたぞ」


皆が喜んでくれていることがとても嬉しくて、息吹は盃を手にした銀に徳利を傾けて酒を注ぐと嬉しそうに笑った。


「明日、主さまのお嫁さんになるの。銀さんも祝ってくれる?」


「ああ、もちろんだとも。今日は少々寄っただけだ。これを飲んだらすぐ百鬼夜行に合流する」


銀のふわふわの尻尾に手を伸ばした息吹はまた思う存分触りまくった後、いつの間にか眠ってしまっていた晴明の頬を撫でて唇に人差し指をあてた。


「じゃあね銀さん。また明日」


「そいつは寝てないはずだからゆっくり寝かせてやれ。じゃあな」


一気に酒を呷った後銀が居なくなると、息吹はそっと晴明を横たえさせた後かけ布団と2人分の枕を持って来て、庭を眺めながら晴明にぴったり寄り添った。


「おや…?今日は…父様と一緒に寝てくれるのかな…?」


「はい。父様、腕枕して」


「おねだり上手だねえ。十六夜には内緒だよ」


寝ぼけ声で笑った晴明に腕枕をしてもらった息吹は準備の疲れも重なってすぐに眠ってしまい、晴明は愛娘を腕に抱いたまま朝を迎えた。