式神が空から地上から撒いた祝言を告げる触れはあっという間に平安町と幽玄町の人々が知るところとなった。
晴明の養女が足しげく幽玄町へ通っていること自体はよく知られていたが、まさかあの主さまに嫁ぐことになるとは――
また晴明の猫可愛がりも有名だったので、息吹の姿をほとんど見たことのない人々はどんなに美しい女だろうかと一目見たくなり、幽玄橋で行われる橋渡しに参加しようという人々で、すでに幽玄橋の前では座り込みの列ができていた。
どうやら朝廷が完全に破壊されたあの不気味な夜にも関わっていたとされる晴明の養女は一体どんな美女なのだろう?
人々がまことしやかにそれを口にする中、ようやく動けるようになった道長が晴明の屋敷を訪れた。
「晴明、息吹」
「あ、道長様だ!道長様っ」
採寸を終え、白無垢も1番可愛いものを選ばせてもらった息吹と晴明が休憩がてら茶を飲んでいる時にやって来た道長は、息吹の顔を見るなりいきなりどすんと座って深々と頭を下げた。
「すまなかった!」
「え?あの…道長様?」
「そなたを朝廷に攫ったのは俺だ。俺はあの時どうかしていて…空海に操られていた。すまぬ、言い訳のしようもない!」
「無事だったのだからその件はもういい。それよりも道長…そなたの具合はどうなのだ」
「俺はなんともない。だが空海は事切れていた。阿闍梨共が荼毘に付した」
「空海さん…死んじゃったんだ…」
――優しい人だと思っていたけれど、実際は自分を利用して、阿修羅をこの身体に乗り移らせた張本人。
会ったのもほんの数回だったが、今でも悪い人だとは何故か言い切れない。
確かに利用されたが、いつもすまなそうな表情をしていたのがいつも心に引っかかっていた。
「そなたが気に病むことではない。明日は祝言なのだからまだ準備することは沢山ある。手伝ってもらうがいいか」
「ああ、そのつもりで来た。息吹…あの妖の主に幸せにしてもらってくれ。そなたが幸せでいてくれるならば、俺の想いも報われる」
「道長様…」
にかっと笑った道長は颯爽と腰を上げて、晴明が用意するものをしたためた箇条書きの紙を手に屋敷を飛び出して行った。
「息吹…今夜は父様の晩酌をしておくれ。今宵は親子水入らずで過ごそう」
「はい、父様」
静かに夜が更けてゆく。
晴明の養女が足しげく幽玄町へ通っていること自体はよく知られていたが、まさかあの主さまに嫁ぐことになるとは――
また晴明の猫可愛がりも有名だったので、息吹の姿をほとんど見たことのない人々はどんなに美しい女だろうかと一目見たくなり、幽玄橋で行われる橋渡しに参加しようという人々で、すでに幽玄橋の前では座り込みの列ができていた。
どうやら朝廷が完全に破壊されたあの不気味な夜にも関わっていたとされる晴明の養女は一体どんな美女なのだろう?
人々がまことしやかにそれを口にする中、ようやく動けるようになった道長が晴明の屋敷を訪れた。
「晴明、息吹」
「あ、道長様だ!道長様っ」
採寸を終え、白無垢も1番可愛いものを選ばせてもらった息吹と晴明が休憩がてら茶を飲んでいる時にやって来た道長は、息吹の顔を見るなりいきなりどすんと座って深々と頭を下げた。
「すまなかった!」
「え?あの…道長様?」
「そなたを朝廷に攫ったのは俺だ。俺はあの時どうかしていて…空海に操られていた。すまぬ、言い訳のしようもない!」
「無事だったのだからその件はもういい。それよりも道長…そなたの具合はどうなのだ」
「俺はなんともない。だが空海は事切れていた。阿闍梨共が荼毘に付した」
「空海さん…死んじゃったんだ…」
――優しい人だと思っていたけれど、実際は自分を利用して、阿修羅をこの身体に乗り移らせた張本人。
会ったのもほんの数回だったが、今でも悪い人だとは何故か言い切れない。
確かに利用されたが、いつもすまなそうな表情をしていたのがいつも心に引っかかっていた。
「そなたが気に病むことではない。明日は祝言なのだからまだ準備することは沢山ある。手伝ってもらうがいいか」
「ああ、そのつもりで来た。息吹…あの妖の主に幸せにしてもらってくれ。そなたが幸せでいてくれるならば、俺の想いも報われる」
「道長様…」
にかっと笑った道長は颯爽と腰を上げて、晴明が用意するものをしたためた箇条書きの紙を手に屋敷を飛び出して行った。
「息吹…今夜は父様の晩酌をしておくれ。今宵は親子水入らずで過ごそう」
「はい、父様」
静かに夜が更けてゆく。

