息吹が涙ぐんでいる様子で、ようやく明日正式に祝言を挙げて夫婦になれるという実感が沸いた主さまは、息吹に手を伸ばそうとしてその手を扇子で思いきり叩かれた。
「…何をする」
「明日の嫁入りの日まで息吹に触れることは許さぬ。こちらにも準備がある故、そなたも息吹を迎え入れる準備をしろ。まさか何も用意せず息吹を迎え入れるつもりだったのではあるまいな」
「…い、いや、俺もちゃんと考えていた」
「主さま、嘘は駄目ですよ。あたしがきっちり用意させてもらいますから早く戻って準備しましょう。息吹、待ってるからね!朝っぱらから幽玄橋に集合して待ってるからね!」
「母様…うんっ!あ、あの主さま…じゃあ…また明日…」
「あ、ああ」
恥らって俯く息吹にきゅんとした主さまだったが、確かに式神が慌ただしく動いているし、何やら反物屋まで来てしまったので、食い下がるわけにはいかなくなった主さまは後ろ髪引かれる思いで山姫と共に晴明の屋敷を去って行った。
その間息吹は正座をして主さまを見送り続けて、隣に腰かけた晴明は息吹の頭を撫でるとぞろぞろと入ってきた反物屋の主人たちを指して肩を叩いた。
「十六夜相手に疲れただろうが、もう少し我慢しておくれ。後で道長も来ると言っていた。身体の調子はかなり良くなったようだよ」
「つ、疲れてないよ。父様こそ…どうだったのっ?母様とその…」
顔を赤くしながらもじもじしている息吹の顔を覗き込んだ晴明は、涼やかな目元を緩ませて口角を上げてにやりと笑った。
「知りたいかい?恐らく苦労したであろう十六夜よりは苦労せずして山姫を手に入れたと思うが」
「えっ!?や、やっぱりやめておきますっ!わあ、父様見てっ、すごく綺麗な白無垢…」
話をはぐらかした息吹は、客間に所狭しと並べられた白無垢の衣装を見て瞳を輝かせた。
「これから採寸をして今日中に仕上げてもらおう。さあ、好きなのを選びなさい。どんなに高価なものでもいいからね」
「父様…」
…実際血は繋がっていないのに、こんなによくしてくれる晴明の愛に触れた息吹はまた涙ぐんでしまい、晴明の胸に抱き着いた。
晴明は愛娘が手元から離れてゆくことを悲しみつつも、息吹を笑わせるために冗談を口にした。
「十六夜と夫婦喧嘩をしたらすぐに戻って来るんだよ。父様が全力で十六夜の命を奪いに行ってあげるからね」
…冗談には聴こえず、涙が引っ込んだ。
「…何をする」
「明日の嫁入りの日まで息吹に触れることは許さぬ。こちらにも準備がある故、そなたも息吹を迎え入れる準備をしろ。まさか何も用意せず息吹を迎え入れるつもりだったのではあるまいな」
「…い、いや、俺もちゃんと考えていた」
「主さま、嘘は駄目ですよ。あたしがきっちり用意させてもらいますから早く戻って準備しましょう。息吹、待ってるからね!朝っぱらから幽玄橋に集合して待ってるからね!」
「母様…うんっ!あ、あの主さま…じゃあ…また明日…」
「あ、ああ」
恥らって俯く息吹にきゅんとした主さまだったが、確かに式神が慌ただしく動いているし、何やら反物屋まで来てしまったので、食い下がるわけにはいかなくなった主さまは後ろ髪引かれる思いで山姫と共に晴明の屋敷を去って行った。
その間息吹は正座をして主さまを見送り続けて、隣に腰かけた晴明は息吹の頭を撫でるとぞろぞろと入ってきた反物屋の主人たちを指して肩を叩いた。
「十六夜相手に疲れただろうが、もう少し我慢しておくれ。後で道長も来ると言っていた。身体の調子はかなり良くなったようだよ」
「つ、疲れてないよ。父様こそ…どうだったのっ?母様とその…」
顔を赤くしながらもじもじしている息吹の顔を覗き込んだ晴明は、涼やかな目元を緩ませて口角を上げてにやりと笑った。
「知りたいかい?恐らく苦労したであろう十六夜よりは苦労せずして山姫を手に入れたと思うが」
「えっ!?や、やっぱりやめておきますっ!わあ、父様見てっ、すごく綺麗な白無垢…」
話をはぐらかした息吹は、客間に所狭しと並べられた白無垢の衣装を見て瞳を輝かせた。
「これから採寸をして今日中に仕上げてもらおう。さあ、好きなのを選びなさい。どんなに高価なものでもいいからね」
「父様…」
…実際血は繋がっていないのに、こんなによくしてくれる晴明の愛に触れた息吹はまた涙ぐんでしまい、晴明の胸に抱き着いた。
晴明は愛娘が手元から離れてゆくことを悲しみつつも、息吹を笑わせるために冗談を口にした。
「十六夜と夫婦喧嘩をしたらすぐに戻って来るんだよ。父様が全力で十六夜の命を奪いに行ってあげるからね」
…冗談には聴こえず、涙が引っ込んだ。

