「ふむ、なんとも筆舌し難い光景だ」
誰かが呆れたような声で見下ろしている気配がしたので、寝ぼけながらもむくりと起き上がった主さまは、部屋の入り口で腕を組んで見下ろしていた晴明を見て一気に心拍数が上昇した。
「せ、晴明」
「その様子ではどうやら想いを遂げたようだな。どうだ、命のひとつやふたつ、私に投げ出すつもりはないか」
「…ふたつも持っていない。お前こそどうなった?山姫が居ないようだが」
「居ないように見えるか?」
晴明が肩越しに振り返るような仕草をしたので背中側を覗き込んでみると、山姫が隠れるようにして身を潜めていた。
…なんとも気まずい雰囲気が流れて、顔を真っ赤にしている山姫を見た途端噴き出してしまった主さまは、まだ爆睡している息吹の肩を揺すって起こそうとした。
「起きろ息吹。でないと俺が晴明に殺されてしまう」
「…え…?…あっ、ち、父様!あ、あ、あ、あの…」
「父様は全て知っているから話さなくともいいよ。それより父様は約束を守ったからね」
「?…あ!母様!母様を連れて帰って来たっていうことは、私の本当の母様になったってこと!?」
「い、息吹…その…あたしは…」
「いやあ、骨が折れたよ。少なくとも干からびるようなことにはならずに済んだ。さあ十六夜、準備を進めよう」
「…準備?」
息吹がこけつまろびながら山姫に駆け寄ってきゃあきゃあと騒いでいる間、晴明は白皙の美貌に微笑を浮かべて唇を吊り上げた。
「祝言に決まっている。平安町から幽玄町へ。幽玄橋を渡った瞬間から息吹は幽玄町の者だ。まあ行き来はいつものようにさせるが、そこで私も気持ちを切り替えたい。盛大にやるぞ」
「山姫はどうする」
「私たちのことか。山姫が頑として祝言を挙げるのを嫌がる故、私たちはこれでいい。事実上もう夫婦だからねえ」
「せ、晴明!あんた余計なこと話すんじゃないよ!」
式神がてきぱきと屋敷内を走り回る中、晴明は息吹を抱っこして笑いかけると、嫁に行ってしまう愛娘の満面の笑みに瞳を細めた。
「父様が最高に綺麗でそなたに似合う白無垢をすぐに用意させるからね。平安町と幽玄町に触れを出して、そなたが十六夜に嫁ぐ旨を知らせよう。祝言は明日だ。これから忙しくなるからね」
「…父様…ありがとう。私…やっと主さまのお嫁さんになれる…!」
晴明は声を詰まらせた息吹の鼻をつまんで笑った。
誰かが呆れたような声で見下ろしている気配がしたので、寝ぼけながらもむくりと起き上がった主さまは、部屋の入り口で腕を組んで見下ろしていた晴明を見て一気に心拍数が上昇した。
「せ、晴明」
「その様子ではどうやら想いを遂げたようだな。どうだ、命のひとつやふたつ、私に投げ出すつもりはないか」
「…ふたつも持っていない。お前こそどうなった?山姫が居ないようだが」
「居ないように見えるか?」
晴明が肩越しに振り返るような仕草をしたので背中側を覗き込んでみると、山姫が隠れるようにして身を潜めていた。
…なんとも気まずい雰囲気が流れて、顔を真っ赤にしている山姫を見た途端噴き出してしまった主さまは、まだ爆睡している息吹の肩を揺すって起こそうとした。
「起きろ息吹。でないと俺が晴明に殺されてしまう」
「…え…?…あっ、ち、父様!あ、あ、あ、あの…」
「父様は全て知っているから話さなくともいいよ。それより父様は約束を守ったからね」
「?…あ!母様!母様を連れて帰って来たっていうことは、私の本当の母様になったってこと!?」
「い、息吹…その…あたしは…」
「いやあ、骨が折れたよ。少なくとも干からびるようなことにはならずに済んだ。さあ十六夜、準備を進めよう」
「…準備?」
息吹がこけつまろびながら山姫に駆け寄ってきゃあきゃあと騒いでいる間、晴明は白皙の美貌に微笑を浮かべて唇を吊り上げた。
「祝言に決まっている。平安町から幽玄町へ。幽玄橋を渡った瞬間から息吹は幽玄町の者だ。まあ行き来はいつものようにさせるが、そこで私も気持ちを切り替えたい。盛大にやるぞ」
「山姫はどうする」
「私たちのことか。山姫が頑として祝言を挙げるのを嫌がる故、私たちはこれでいい。事実上もう夫婦だからねえ」
「せ、晴明!あんた余計なこと話すんじゃないよ!」
式神がてきぱきと屋敷内を走り回る中、晴明は息吹を抱っこして笑いかけると、嫁に行ってしまう愛娘の満面の笑みに瞳を細めた。
「父様が最高に綺麗でそなたに似合う白無垢をすぐに用意させるからね。平安町と幽玄町に触れを出して、そなたが十六夜に嫁ぐ旨を知らせよう。祝言は明日だ。これから忙しくなるからね」
「…父様…ありがとう。私…やっと主さまのお嫁さんになれる…!」
晴明は声を詰まらせた息吹の鼻をつまんで笑った。

