あとちょっとで唇がくっつく…という既の所で、息吹から両手で口を塞がれた。
「…なんだこれは」
「ま、まだ駄目っ」
起き上がると恥らって背中を向けた息吹にむらっときた主さまは、何度もちらちらと帯に視線を遣りながら肩で息をついた。
「今夜は逃れようがないぞ」
「ね、ねえ主さま、もうちょっとお話しようよ。あ、そうだ、今度は私が膝枕してあげる」
「……わかった」
あからさまに渋々といった感じで息吹の膝枕にあやかったのだが…これがなかなかふわふわしていて気持ちがいい。
しかも息吹が優しく頭を撫でてくれるので、顔は無表情を装っていても主さまの耳は真っ赤で、息吹は話の続きを語り始めた。
「女性は教養がないと、って父様から言われたの。私、雪ちゃんに字を少しだけ教えてもらっただけだから…。だから父様に本格的に字を教えてもらって書けるようになって、お茶やお料理も覚えたの。いつ主さまに会っても恥ずかしくないように、って」
「…俺に会えば食われると思っていたのに、か?」
「主さまが人を食べるなんて知らなかったの。私が大きくなったら食べるつもりでいたっていうのを父様から聴いてたけど…でも主さまは私には優しかったと思うから、もしかしたら食べないでいてくれるかな、って。私の考え、甘かった?」
「…いや、間違ってはいない。実際俺はお前を食っていないだろう?」
「でも今から食べるんでしょ?」
「……違う意味でなら」
――裏庭から鈴虫の音が聴こえて、沈黙の帳が降りた2人は少しの間秋の風物の鳴き声を鑑賞した。
息吹の手はずっと主さまの頭を撫で続けて、そして思い切って口を開いた。
「主さまにお願いがあるの」
「…なんだ?」
主さまが問い返したが、息吹がまた黙ってしまったので顔を上げようとした時――頬にぽつりと水滴が弾けた。
「…息吹?何故泣いて…」
「…浮気してもいいから、必ず私の所に戻って来て。お願い主さま…」
…思いがけない願いに言葉を失った主さまは、ぽろぽろと涙を零す息吹の頬に手を伸ばしながら起き上がった。
「…俺が浮気をすると思っているのか」
「だって…主さまはもてるから…」
「…夫になる俺を信じられないのか」
「!ち、違うよ…違うけど私…主さまを繋ぎ止めていられる自信が無いの。だから…」
これが答えだと言わんばかりに主さまは息吹をきつく抱きしめた。
「…なんだこれは」
「ま、まだ駄目っ」
起き上がると恥らって背中を向けた息吹にむらっときた主さまは、何度もちらちらと帯に視線を遣りながら肩で息をついた。
「今夜は逃れようがないぞ」
「ね、ねえ主さま、もうちょっとお話しようよ。あ、そうだ、今度は私が膝枕してあげる」
「……わかった」
あからさまに渋々といった感じで息吹の膝枕にあやかったのだが…これがなかなかふわふわしていて気持ちがいい。
しかも息吹が優しく頭を撫でてくれるので、顔は無表情を装っていても主さまの耳は真っ赤で、息吹は話の続きを語り始めた。
「女性は教養がないと、って父様から言われたの。私、雪ちゃんに字を少しだけ教えてもらっただけだから…。だから父様に本格的に字を教えてもらって書けるようになって、お茶やお料理も覚えたの。いつ主さまに会っても恥ずかしくないように、って」
「…俺に会えば食われると思っていたのに、か?」
「主さまが人を食べるなんて知らなかったの。私が大きくなったら食べるつもりでいたっていうのを父様から聴いてたけど…でも主さまは私には優しかったと思うから、もしかしたら食べないでいてくれるかな、って。私の考え、甘かった?」
「…いや、間違ってはいない。実際俺はお前を食っていないだろう?」
「でも今から食べるんでしょ?」
「……違う意味でなら」
――裏庭から鈴虫の音が聴こえて、沈黙の帳が降りた2人は少しの間秋の風物の鳴き声を鑑賞した。
息吹の手はずっと主さまの頭を撫で続けて、そして思い切って口を開いた。
「主さまにお願いがあるの」
「…なんだ?」
主さまが問い返したが、息吹がまた黙ってしまったので顔を上げようとした時――頬にぽつりと水滴が弾けた。
「…息吹?何故泣いて…」
「…浮気してもいいから、必ず私の所に戻って来て。お願い主さま…」
…思いがけない願いに言葉を失った主さまは、ぽろぽろと涙を零す息吹の頬に手を伸ばしながら起き上がった。
「…俺が浮気をすると思っているのか」
「だって…主さまはもてるから…」
「…夫になる俺を信じられないのか」
「!ち、違うよ…違うけど私…主さまを繋ぎ止めていられる自信が無いの。だから…」
これが答えだと言わんばかりに主さまは息吹をきつく抱きしめた。

