酒が入るとだんだん気持ちも解れてきて、口も滑らかになってきた2人は過去の話に花を咲かせていた。
「晴明に連れ去られた後どう過ごしていた?山姫たちが何度も会いに行ったはずだが」
「だって父様から“食うためにまた連れ去られてしまうよ”って言われたんだもん。私本当に怖くて…」
「…あいつめ…。で?泣き暮らしていたわけか?」
酒も空になり、塩湯で茹でた豆などの簡単な酒の肴を2人で代わる代わる口に入れながら、息吹は天井を見上げながらもう随分昔のことを思い浮かべた。
「最初は泣いてばっかりだったよ。紙で出来た人みたいな人形が沢山居るし、でも主さまは居ないし…。ずっと一緒に主さまと寝てたからなかなか眠れなくって、父様に我が儘を言って一緒に寝てもらってたの」
「気持ちよく寝ている時に毎回厠に付き合わされるのには骨が折れた。晴明も同じ苦汁を味わったか」
「父様は主さまみたいに文句を言わずについて来てくれたもん。お風呂にも一緒に入ってくれたもん」
「…ふん」
昔の話なのにやきもちを妬いてぷいっと顔を逸らした主さまから口に豆を押し付けられた息吹は、ぱかっと口を開いて豆を放り込んでもらうと主さまの膝に頭を預けた。
「!…やめろ」
「待ちくたびれちゃった。それで?主さまは私が居なくなって寂しかった?」
逆に問われた主さまは浴衣の襟が抜けてうなじが露わになった息吹の白い肌にどぎまぎしつつ鼻を鳴らして団扇で頭を叩いた。
「寂しいものか。うるさいのが居なくなってせいせいした」
「…」
…すぐに反論してくるかと思ったら沈黙を決め込まれて焦った主さまは、恐る恐る息吹の顔を覗き込んだ。
「私…うるさかった…?」
「!が、餓鬼はうるさくて当然だ。………嘘をついた。俺も幾度となくお前を取り戻そうと思って平安町へ行ったことがある。…いつも途中で引き返した」
「私を…取り戻しに?」
曇っていた表情がぱっと笑顔になったので、ほっとした主さまは団扇で顔を仰いでやりながら、死んだように過ごしていたかつての暗黒の数年間が頭をよぎった。
「庭の花を見る度にお前を思い出していた。もう帰って来ないのかと思ったら無性に腹が立って…荒れた時期があった。今では笑い話だ」
「…嬉しい。でも私はね、その間にもしかしたらいつか主さまに会えるんじゃないかって女磨きをしてたよ。知ってた?」
「…知らなかった…」
見つめ合う。
息吹の瞳の中に映る自分の姿が、どんどん大きくなった。
「晴明に連れ去られた後どう過ごしていた?山姫たちが何度も会いに行ったはずだが」
「だって父様から“食うためにまた連れ去られてしまうよ”って言われたんだもん。私本当に怖くて…」
「…あいつめ…。で?泣き暮らしていたわけか?」
酒も空になり、塩湯で茹でた豆などの簡単な酒の肴を2人で代わる代わる口に入れながら、息吹は天井を見上げながらもう随分昔のことを思い浮かべた。
「最初は泣いてばっかりだったよ。紙で出来た人みたいな人形が沢山居るし、でも主さまは居ないし…。ずっと一緒に主さまと寝てたからなかなか眠れなくって、父様に我が儘を言って一緒に寝てもらってたの」
「気持ちよく寝ている時に毎回厠に付き合わされるのには骨が折れた。晴明も同じ苦汁を味わったか」
「父様は主さまみたいに文句を言わずについて来てくれたもん。お風呂にも一緒に入ってくれたもん」
「…ふん」
昔の話なのにやきもちを妬いてぷいっと顔を逸らした主さまから口に豆を押し付けられた息吹は、ぱかっと口を開いて豆を放り込んでもらうと主さまの膝に頭を預けた。
「!…やめろ」
「待ちくたびれちゃった。それで?主さまは私が居なくなって寂しかった?」
逆に問われた主さまは浴衣の襟が抜けてうなじが露わになった息吹の白い肌にどぎまぎしつつ鼻を鳴らして団扇で頭を叩いた。
「寂しいものか。うるさいのが居なくなってせいせいした」
「…」
…すぐに反論してくるかと思ったら沈黙を決め込まれて焦った主さまは、恐る恐る息吹の顔を覗き込んだ。
「私…うるさかった…?」
「!が、餓鬼はうるさくて当然だ。………嘘をついた。俺も幾度となくお前を取り戻そうと思って平安町へ行ったことがある。…いつも途中で引き返した」
「私を…取り戻しに?」
曇っていた表情がぱっと笑顔になったので、ほっとした主さまは団扇で顔を仰いでやりながら、死んだように過ごしていたかつての暗黒の数年間が頭をよぎった。
「庭の花を見る度にお前を思い出していた。もう帰って来ないのかと思ったら無性に腹が立って…荒れた時期があった。今では笑い話だ」
「…嬉しい。でも私はね、その間にもしかしたらいつか主さまに会えるんじゃないかって女磨きをしてたよ。知ってた?」
「…知らなかった…」
見つめ合う。
息吹の瞳の中に映る自分の姿が、どんどん大きくなった。

