盆に2つの御猪口と2本の徳利を乗せて戻って来た息吹は、いつもと全く同じ態度だった。
…本当にこれから初夜を迎えるのか?と疑ってしまうほどにあっけらかんとしている息吹が床に盆を置くと裏庭側の障子を開けて秋の虫の鳴き声を招き入れた。
「ねえ主さま、私も飲んでいい?」
「…構わんが…酔っ払うなよ」
「酔っぱらったら主さまが介抱してくれるでしょ?」
「酔っぱらったら…………なんでもない」
“酔っ払ったら百鬼夜行を早く切り上げてまで会いに来た意味がないじゃないか”と言いだせなかったのもまたへたれ故。
またにこにこしている息吹が何ら緊張していない様子だし、まさか夢を見ているのでは…と自分自身を疑ってしまった主さまは頬を軽くつねってみた。
「ふふっ、何してるの?」
「…なんでもない」
無言で御猪口を差し出すと息吹が徳利を傾けてくれたのだが…
少し手が触れ合った瞬間、まるで火に触れたように息吹が手を引っ込めて、まじまじと見つめてきた。
「…息吹?どうした?」
「…!な、なんでもないよ。ごめんなさい、早く拭かなきゃ」
畳に転がった徳利を盆の上に置いた主さまは、手拭いで酒を吸った畳を拭いている息吹の顔をお返しと言わんばかりにまじまじと見つめた。
見つめているうちに息吹の顔が真っ赤になり…耳も真っ赤になり…それがとうとう主さまにも伝染した。
「な、何故赤くなる」
「ぬ、主さまこそ!私ばっかり見ないで!」
「お前…化粧をしているのか?紅が…」
意図せず自然にいつもより少し赤い唇に手を伸ばして触れた主さまは、息吹が震える瞳で上目遣いで見つけてきたので、かちんこちんになってしまった。
だが…自分のために化粧をして、待っている間に居眠りをしてしまった息吹がもっと可愛くなって、親指と人差し指で息吹の額を弾いた主さまはもう1度息吹に御猪口を差し出した。
「晩酌に付き合え」
「!うんっ」
今まで平然と見えていたが、実際は自分と同じようにものすごく緊張している――
怖がられるのは嫌だけれど、意識されていることはとても嬉しい。
「そんなにめかし込んで、誰を待っていたんだ?」
「えっとねえ、怒りんぼで助平で、でも時々すっごく優しくなる殿方を待ってたの。鈴を持ってる人なんだけど、知ってる?」
「ああ、知っている」
胸元を叩くと、ちりんと音がした。
主さまは一気に酒を呷り、その御猪口を息吹に手渡した。
…本当にこれから初夜を迎えるのか?と疑ってしまうほどにあっけらかんとしている息吹が床に盆を置くと裏庭側の障子を開けて秋の虫の鳴き声を招き入れた。
「ねえ主さま、私も飲んでいい?」
「…構わんが…酔っ払うなよ」
「酔っぱらったら主さまが介抱してくれるでしょ?」
「酔っぱらったら…………なんでもない」
“酔っ払ったら百鬼夜行を早く切り上げてまで会いに来た意味がないじゃないか”と言いだせなかったのもまたへたれ故。
またにこにこしている息吹が何ら緊張していない様子だし、まさか夢を見ているのでは…と自分自身を疑ってしまった主さまは頬を軽くつねってみた。
「ふふっ、何してるの?」
「…なんでもない」
無言で御猪口を差し出すと息吹が徳利を傾けてくれたのだが…
少し手が触れ合った瞬間、まるで火に触れたように息吹が手を引っ込めて、まじまじと見つめてきた。
「…息吹?どうした?」
「…!な、なんでもないよ。ごめんなさい、早く拭かなきゃ」
畳に転がった徳利を盆の上に置いた主さまは、手拭いで酒を吸った畳を拭いている息吹の顔をお返しと言わんばかりにまじまじと見つめた。
見つめているうちに息吹の顔が真っ赤になり…耳も真っ赤になり…それがとうとう主さまにも伝染した。
「な、何故赤くなる」
「ぬ、主さまこそ!私ばっかり見ないで!」
「お前…化粧をしているのか?紅が…」
意図せず自然にいつもより少し赤い唇に手を伸ばして触れた主さまは、息吹が震える瞳で上目遣いで見つけてきたので、かちんこちんになってしまった。
だが…自分のために化粧をして、待っている間に居眠りをしてしまった息吹がもっと可愛くなって、親指と人差し指で息吹の額を弾いた主さまはもう1度息吹に御猪口を差し出した。
「晩酌に付き合え」
「!うんっ」
今まで平然と見えていたが、実際は自分と同じようにものすごく緊張している――
怖がられるのは嫌だけれど、意識されていることはとても嬉しい。
「そんなにめかし込んで、誰を待っていたんだ?」
「えっとねえ、怒りんぼで助平で、でも時々すっごく優しくなる殿方を待ってたの。鈴を持ってる人なんだけど、知ってる?」
「ああ、知っている」
胸元を叩くと、ちりんと音がした。
主さまは一気に酒を呷り、その御猪口を息吹に手渡した。

