主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

主さまの百鬼夜行と合流した銀は、妖としての格は先頭を行く主さまたちの側近に入ってもおかしくはない力量の持ち主だったが、新米なために一応遠慮して後方を歩いていた。


が、先頭の方からさざ波のように伝達が来て、銀の前に居た貂(てん)という狐に似た妖が銀の肩にちょこんと乗った。


「主さまが呼んでる。早く行かないと殺されるよ。怖い怖い」


「内心有頂天なはずだからそれはないだろう。仕方ないから行ってやろう」


列を抜けて先頭へ移動した銀は、何食わぬ顔で百鬼を率いている主さまの顔を見て…噴き出した。


「…何がおかしい」


「本当はにやにやしてくてたまらないんだろう?ああわかったぞ、こいつらは知らないのか。お前が今夜息吹と…」


「!こ、こっちに来い!」


慌てふためいた主さまからいきなり羽交い絞めされて身動きが取れなくなると、主さまは歩を進めて大きく咳払いをして自身を落ち着かせていた。


「…ひとつ聴きたいことがある」


「なんだ?そういうのは晴明の方が得意なんだが」


「…あいつはあいつで今日は忙しい。だからお前で勘弁してやる」


「おお?相変わらず高飛車な奴だ。で、なんだ?早く言え」


だが主さまは風に髪をなびかせながらもものすごく言いにくそうに口を開いては閉じていて、だんだん飽きてきた銀がよそ見をし出すと、ようやくそれを口にした。



「…女が喜びそうな話術を教えてくれ」


「はあ?口下手のお前にか?背伸びをするな。いきなりお前がべらべら喋ったら逆に息吹が引くぞ」


「…そうだろうか」


「ああ、どん引きだ。話術など必要ない。まっすぐ目を見て、“お前を愛している”と言うだけでいい」


「!そ、そんなこと…言えるか!」


「まさか息吹の方からそう言わせる気か?十六夜…男になれ。息吹に恥をかかせるな。優しくしてやれ。それで十分だ」



闇夜にも主さまの顔が真っ赤になっているのがわかった。

相変わらずからかい甲斐のある奴だとほくそ笑んだが、どうにも息吹の前では純情な男に成り果ててしまうらしく、いっかな男気が無い。


「きっと息吹は不安がる。お前には難しいだろうが、素直に想いを伝えて帯を解けばいい。それだけだ」


「!!」


今度は顔だけではなく全身真っ赤になった。

ますます楽しくなって、明日早朝から邪魔をしに行ってやろうと決めた。