主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「晴明…お前には悪いが、1年も待っていられない。息吹とそう約束したんだ。…俺もあと1年も待てない。だがお前に隠れてこそこそするつもりもない。だから…息吹を俺にくれ」


「ほう、無口で口下手な男がつらつらと長く喋ったものだな。それほどまでに息吹を欲しているということか」


「…そうだ。あれを幸せにしてやりたい。…いや、幸せにしてやる。わかってくれ晴明。お前だって山姫を妻にしたいんだろう?それが幼い頃からのお前の夢じゃなかったか?」


「…」



殺気が冷気となって2人の間に渦巻いていた。

だが主さまも必死で、晴明とは絶対に戦いなくないと思いつつも、最大の難関であることに変わりはなく、拳を握っては閉じていた手を広げてみせた。



「何のつもりだ」


「お前の好きなようにしろ。その代り…俺が生きていたら息吹は貰い受ける。1年も…1日も待ってはいられない」


「そこまで恋焦がれているのか。妖の主のそなたが?もう息吹を泣かせないと約束できるのか?」


「…約束する。少なくとも息吹も俺と同じ気持ちのはずだ。交換条件を持ちかけてお前には悪いと思っているが、俺とて必死なんだ。だから好きなようにしろ」



――睨み合った。

不穏な空気に気付いた山姫が部屋から飛び出して来て、今まで刃を交えたことのない2人が諍いを起こしていることに驚いて間に割って入った。


「ちょっと…!何やってるんだい!?晴明、その印を解きな!主さまに何かしたら許さないよ!」


「…山姫…」


「この人は時々頼りないけどあたしたちをまとめて率いてくれる大切な方なんだからね!主さまに何かするつもりなら、まずあたしを倒しな。さあ、かかっておいで!」


赤茶の長い髪を逆立てて闘志をむき出しにしてくる山姫の普段は綺麗な顔は殺意に歪んでいて、愛しい女と戦えるわけもない晴明は言われた通り印を解いて小さく腕を上げると降参した。


「…わかった。私とて十六夜を血祭りに上げたくはない。…山姫、よく私を止めてくれた」


「ふん、あんたのためじゃないよ」


「晴明…じゃあ…」


晴明は再び背を向けて一瞬空を仰ぐと、腰に手をあてて長い息を吐いた。



「好きにするがいい。そなたの執念に心が折れてしまった。1年待たずして、息吹をそなたにやる」


「…!」



とうとう――