薄い藤色の着物を着て、そして髪には昨日買った髪紐をつけた息吹が式神の童女と共に奥の間へ消えて行き、
庭全体が見える位置で晴明が腰を下ろすと姿を消したままの主さまたちもそれに続いた。
「息吹はどうだい?美しくなっただろう?」
「あの子は小さな時から可愛かったんだ。でもこんなに綺麗になるなんて…」
山姫が目尻に涙を浮かべながら俯き、さっきから雪男は頬をほんのり赤らめて黙り込んだままだ。
そして主さまは息吹が消えて行った奥の間をずっと見ていて、晴明が苦笑しながら蛍が飛び交う庭を指した。
「ここから見える景色…見たことはないか?」
「なに?」
問われて庭に目を遣り、そして気が付いた。
花々が溢れる美しい庭…
小さな頃、毎日花に水を遣って愛でていた息吹。
ここから見える景色は、自分の屋敷の縁側から見える庭と変わらない。
「息吹が…花を…?」
「ああそうだ。ここへ来てすぐに苗から花を育て始めた。心細さを埋めようとして、毎日庭でせっせと苗を植えていた」
また山姫が涙ぐみ、主さまの袖をきゅっと握って眉根を絞って訴える。
「主さま…息吹は戻って来たがっているんですよ。主さま、どうか」
答えようとした時、
「父様、お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
息吹が2人分の茶を運んできて晴明の隣に座ると…それは主さまの目の前だった。
――大きな黒瞳に、美しい花びらのような唇…
握ってしまえば折れてしまいそうなほどに腕は細く、抱きしめてしまえば壊れてしまいそうなほどに身体の線も細く…
つい主さまが見惚れてしまっていると、晴明が小さく笑いながら息吹の肩を抱いて庭を指した。
「ここから見える庭は主さまの庭に似ている気がするが、気のせいだろうか?」
鎌をかけた晴明に対し、主さまたちが固唾を飲んで見守っていると…
息吹がふわりと笑って頷くと、腰を上げて庭に下りた。
「…あの庭が好きだったんです。…元気かな」
最後は小さく掻き消えるような声だったが、主さまには届いていた。
“息吹、帰って来い”
心で叫ぶ。
庭全体が見える位置で晴明が腰を下ろすと姿を消したままの主さまたちもそれに続いた。
「息吹はどうだい?美しくなっただろう?」
「あの子は小さな時から可愛かったんだ。でもこんなに綺麗になるなんて…」
山姫が目尻に涙を浮かべながら俯き、さっきから雪男は頬をほんのり赤らめて黙り込んだままだ。
そして主さまは息吹が消えて行った奥の間をずっと見ていて、晴明が苦笑しながら蛍が飛び交う庭を指した。
「ここから見える景色…見たことはないか?」
「なに?」
問われて庭に目を遣り、そして気が付いた。
花々が溢れる美しい庭…
小さな頃、毎日花に水を遣って愛でていた息吹。
ここから見える景色は、自分の屋敷の縁側から見える庭と変わらない。
「息吹が…花を…?」
「ああそうだ。ここへ来てすぐに苗から花を育て始めた。心細さを埋めようとして、毎日庭でせっせと苗を植えていた」
また山姫が涙ぐみ、主さまの袖をきゅっと握って眉根を絞って訴える。
「主さま…息吹は戻って来たがっているんですよ。主さま、どうか」
答えようとした時、
「父様、お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
息吹が2人分の茶を運んできて晴明の隣に座ると…それは主さまの目の前だった。
――大きな黒瞳に、美しい花びらのような唇…
握ってしまえば折れてしまいそうなほどに腕は細く、抱きしめてしまえば壊れてしまいそうなほどに身体の線も細く…
つい主さまが見惚れてしまっていると、晴明が小さく笑いながら息吹の肩を抱いて庭を指した。
「ここから見える庭は主さまの庭に似ている気がするが、気のせいだろうか?」
鎌をかけた晴明に対し、主さまたちが固唾を飲んで見守っていると…
息吹がふわりと笑って頷くと、腰を上げて庭に下りた。
「…あの庭が好きだったんです。…元気かな」
最後は小さく掻き消えるような声だったが、主さまには届いていた。
“息吹、帰って来い”
心で叫ぶ。

