主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

“連れて行ってやる”


そう言われて3人の表情が変わった。


「晴明、私もついて行くからね!」


「美人なのだからそんな顔をするのはよしなさい。では行くか」


腰を上げようとすると畳に着き立てていた刀を主さまが抜いて鞘に収めながらぷいっと顔を逸らした。


「誰が行くと言った?俺はまだ返事をしてない」


「ではそなたは置いて行く。雪男と山姫だけおいで」


舌打ちをしながら腰を上げた主さまに2人が畳に頭をつきそうなほどに頭を下げた。


「主さま、ありがとうございます!ああ、息吹に会える!」


「悪いが姿を消してくれ。言葉を交わすのも無しだ。あの子は未だ主さまに食われると思っているからね」


――晴明の条件はひどいものだったが、それでも会いたいと願う気持ちは寸分も変わらず、彼らは主さまの屋敷を出て幽玄橋に向かった。


「主さま?どちらへお出かけに?」


「息吹の所だ」


「おおっ、ついに迎えに行かれるのですね!ああまたあの子を腕に抱いてみたい!」


赤鬼と青鬼はそれは恐ろしい形相をしているが、息吹を腕に抱いた感触は未だに忘れていない。

山姫は笑ったが、渡り切った所で牛車を待たせていて、それに乗り込み、浮かれる山姫と雪男…

そして黙ったままの主さまをにやにやしながら眺めていた。


「動揺しているようだが今回は鈴は無しにしてもらおうか。あれで危うく息吹が気付きそうになってしまった」


「…わかった」


それっきり黙ってしまい、晴明の屋敷に着くと内側から式神たちが出てきて迎え入れた。


――そこで彼らは言葉を失った。


庭には赤い花を愛でている息吹が立っていて、晴明を見るとふわっと微笑んで手を振ってきた。

3人は姿を消しているので、息吹からは見えていない。


「父様、お帰りなさい」


「ただいま。留守の間に道長が来なかったかい?」


「?いえ、来てません。父様、早くっ」


はしゃいで晴明の手を引っ張って中へ入って行く息吹の可憐な姿に…皆が見惚れた。


「あの子…綺麗になって…っ」


「あれが…息吹?」


「…入るぞ」


三者三様の反応。