「助けて、主さま…!」
――息吹が助けを求めている――
居ても立っても居られなくなった主さまが息吹に1歩歩み寄ったが、それを制止したのは晴明だった。
「近付いてはならぬ。あれはまだ息吹ではない」
「あれは息吹だ!瞳の色を見ろ!泣いているじゃないか…息吹…!」
感情的になって腕を振り払おうとする主さまの袖を握って離さなかった晴明は、ぐっと声色を下げて主さまの耳元に強い口調で囁きかけた。
「見ろ」
「!」
手を離した晴明が人差し指と人差し指を交差させて息吹に照準を定めながら息を吹きかけた。
すると息吹の身体が透けて、うずくまった息吹は卵の殻のようなものを被り、そこに醜悪で大柄な鬼のような形相をした男が腕を叩きつけているのが見えた。
「息吹!」
「無意識に結界を張っている。だがあれが割れてしまえば…また阿修羅に身体を乗っ取られるのだ。十六夜よ、天叢雲で阿修羅を刺すのだ」
「結界だと?息吹は人だぞ!?」
「…十六夜…我々は盲目になっていたやもしれぬ。私は元々息吹に何かしらのものを感じていたが、気のせいだと思い込んでいた。だが空海は息吹に何かしらのものを感じて掘り起こしたのだ。十六夜よ」
卵のような結界にどんどんひびが入っていくのがわかり、よろよろとふらつきながら息吹が手を伸ばしてくるので、罠の危険性も省みずに主さまは息吹に手を伸ばした。
そこに、晴明の静かな声が降った。
「息吹は…人ではない」
主さまの目尻に涙が浮かんだ。
…息吹が人であろうが神であろうが妖であろうが、関係ない。
息吹を愛した気持ちに偽りもなければ、どんな存在であろうとも夫婦になって、幸せに暮らしていこうと決めていたのだから。
「…お前を見捨てたりしない。さあ…俺の手を取れ」
「……主…さ…ま…」
あんな鬼をも上回る形相をした大男に襲い掛かられて、さぞ怖いことだろう――
恐怖に震えながらも頼ってきて助けを求めて来る息吹の手を誰が振り払えるだろうか?
「息吹…頑張れ。俺はお前を刺したくはない。お前の想いが強ければ強いほど、きっと阿修羅に打ち勝つことができる。さあ、来い」
震える細い指を、掴んだ。
その手は燃えるように熱く、主さまは全身全霊を込めて息吹を抱きしめた。
――息吹が助けを求めている――
居ても立っても居られなくなった主さまが息吹に1歩歩み寄ったが、それを制止したのは晴明だった。
「近付いてはならぬ。あれはまだ息吹ではない」
「あれは息吹だ!瞳の色を見ろ!泣いているじゃないか…息吹…!」
感情的になって腕を振り払おうとする主さまの袖を握って離さなかった晴明は、ぐっと声色を下げて主さまの耳元に強い口調で囁きかけた。
「見ろ」
「!」
手を離した晴明が人差し指と人差し指を交差させて息吹に照準を定めながら息を吹きかけた。
すると息吹の身体が透けて、うずくまった息吹は卵の殻のようなものを被り、そこに醜悪で大柄な鬼のような形相をした男が腕を叩きつけているのが見えた。
「息吹!」
「無意識に結界を張っている。だがあれが割れてしまえば…また阿修羅に身体を乗っ取られるのだ。十六夜よ、天叢雲で阿修羅を刺すのだ」
「結界だと?息吹は人だぞ!?」
「…十六夜…我々は盲目になっていたやもしれぬ。私は元々息吹に何かしらのものを感じていたが、気のせいだと思い込んでいた。だが空海は息吹に何かしらのものを感じて掘り起こしたのだ。十六夜よ」
卵のような結界にどんどんひびが入っていくのがわかり、よろよろとふらつきながら息吹が手を伸ばしてくるので、罠の危険性も省みずに主さまは息吹に手を伸ばした。
そこに、晴明の静かな声が降った。
「息吹は…人ではない」
主さまの目尻に涙が浮かんだ。
…息吹が人であろうが神であろうが妖であろうが、関係ない。
息吹を愛した気持ちに偽りもなければ、どんな存在であろうとも夫婦になって、幸せに暮らしていこうと決めていたのだから。
「…お前を見捨てたりしない。さあ…俺の手を取れ」
「……主…さ…ま…」
あんな鬼をも上回る形相をした大男に襲い掛かられて、さぞ怖いことだろう――
恐怖に震えながらも頼ってきて助けを求めて来る息吹の手を誰が振り払えるだろうか?
「息吹…頑張れ。俺はお前を刺したくはない。お前の想いが強ければ強いほど、きっと阿修羅に打ち勝つことができる。さあ、来い」
震える細い指を、掴んだ。
その手は燃えるように熱く、主さまは全身全霊を込めて息吹を抱きしめた。

