大体からしてこの天叢雲はろくな案を口にしたことがない。
喋ったと思えば大抵が悪口雑言で、“何か食わせろ”と要求してくる。
長い眠りから覚めたばかりの天叢雲は主さまを使ってとにかく誰でもいいから魂を食いたがっていた。
「この状況で冗談を言うつもりならやめておけ」
『冗談ではない。あの娘が助かるかもしれん唯一の方法だと言うのに…聴きたくないのか?』
「…話してみろ」
建物に向かう息吹を追いながら胸元に手をやるとちりんと鈴の音がした。
すると…
その音が聴こえたのか息吹が振り返り、眉をひそめてじっと見つめてきたので、もしかしたら息吹にこの音が聴こえたのでは…と期待した主さまは会話を一時中断して懐から小さな鈴を取り出した。
「息吹、これがなんだかわかるか?」
『しつこい。我がその可愛らしい音に反応しただけだ。もう声をかけるな』
――だが阿修羅は、息吹の身体が自分の意志とは裏腹に勝手に反応したことを主さまに言わなかった。
息吹は眠っているはずなのに、身体が動いてしまう。
あの鈴はよほど大切なものなのか、何度も勝手にちらちらと主さまの掌にある鈴を見てしまい、身を翻すと足早に建物に向かった。
「…駄目か」
『我の案を聴け』
「話せ。ろくな案じゃなかったら刀身をへし折るからな」
主さまの命を受けて人々の避難をさせていた百鬼に向けて腕を振り下ろして炎を放つ息吹の後を晴明と共に追いながら低く呟くと、あちこちから何かが爆発する炸裂音が聴こえた。
一刻も早く息吹を止める必要があり、だが百鬼は息吹が赤子だった時から息吹を我が子のように可愛がっていたために誰も攻撃することができない。
それを逆手に取ってどんどん行き進んでいく息吹の中の阿修羅は、とうとう人に手をかけた。
「ひぃっ!」
『灰燼と化せ』
逃げ遅れた庭師の男の喉元を掴んでにたりと笑うと、男の身体が一瞬にして燃え上がり、灰となって風に乗って消えた。
それを見てまた恐慌状態に陥った人々が逃げ惑い、本来なら共闘することのない百鬼は懸命に人々を出口に誘導して叫び続けた。
「早くこっちへ逃げろ!」
「逃げないと食ってしまうぞ!」
百鬼の誇りを持って、息吹を助ける。
人を食わずに人を助けることができる妖として、息吹に誉められたい。
喋ったと思えば大抵が悪口雑言で、“何か食わせろ”と要求してくる。
長い眠りから覚めたばかりの天叢雲は主さまを使ってとにかく誰でもいいから魂を食いたがっていた。
「この状況で冗談を言うつもりならやめておけ」
『冗談ではない。あの娘が助かるかもしれん唯一の方法だと言うのに…聴きたくないのか?』
「…話してみろ」
建物に向かう息吹を追いながら胸元に手をやるとちりんと鈴の音がした。
すると…
その音が聴こえたのか息吹が振り返り、眉をひそめてじっと見つめてきたので、もしかしたら息吹にこの音が聴こえたのでは…と期待した主さまは会話を一時中断して懐から小さな鈴を取り出した。
「息吹、これがなんだかわかるか?」
『しつこい。我がその可愛らしい音に反応しただけだ。もう声をかけるな』
――だが阿修羅は、息吹の身体が自分の意志とは裏腹に勝手に反応したことを主さまに言わなかった。
息吹は眠っているはずなのに、身体が動いてしまう。
あの鈴はよほど大切なものなのか、何度も勝手にちらちらと主さまの掌にある鈴を見てしまい、身を翻すと足早に建物に向かった。
「…駄目か」
『我の案を聴け』
「話せ。ろくな案じゃなかったら刀身をへし折るからな」
主さまの命を受けて人々の避難をさせていた百鬼に向けて腕を振り下ろして炎を放つ息吹の後を晴明と共に追いながら低く呟くと、あちこちから何かが爆発する炸裂音が聴こえた。
一刻も早く息吹を止める必要があり、だが百鬼は息吹が赤子だった時から息吹を我が子のように可愛がっていたために誰も攻撃することができない。
それを逆手に取ってどんどん行き進んでいく息吹の中の阿修羅は、とうとう人に手をかけた。
「ひぃっ!」
『灰燼と化せ』
逃げ遅れた庭師の男の喉元を掴んでにたりと笑うと、男の身体が一瞬にして燃え上がり、灰となって風に乗って消えた。
それを見てまた恐慌状態に陥った人々が逃げ惑い、本来なら共闘することのない百鬼は懸命に人々を出口に誘導して叫び続けた。
「早くこっちへ逃げろ!」
「逃げないと食ってしまうぞ!」
百鬼の誇りを持って、息吹を助ける。
人を食わずに人を助けることができる妖として、息吹に誉められたい。

