息吹の中に居る阿修羅が“殺す”と言ったのは頭では理解していても、それでも主さまの魂にその言葉は刃のように突き刺さった。
『息吹という娘は我の中で眠っている。もう起きることもなければ、このまま痛みもなく死ぬだろう。我は我に課せられた任務を遂行する。さあ、行くぞ』
「息吹…起きろ。俺が来たぞ。今すぐ起きるんだ」
もしかしたら声が届くかもしれない――
一縷の望みを懸けて息吹に呼びかけたが、赤銅色の瞳をして妖艶な空気を纏った息吹は口角を吊り上げて笑った。
『声は届かぬ。この娘を好いているのだな?舎脂に似ているので我も心が痛むが、娘の意識はもう戻らぬだろう』
晴明は階で倒れている道長を抱き起しながら息吹を注視した。
完全に意識も身体も乗っ取られていて、主さまの声すら届かない。
禍々しく吊り上った唇はとてもいつもの息吹とは思えず、晴明は唇に人差し指と中指をあてて術を唱えると、護摩壇に張られた結界に突き刺した。
「解!」
閃光が炸裂して結界が弾け飛ぶと、主さまの回りには一気に百鬼が集まって次々に息吹に声をかけた。
「息吹ー!俺たちが来たぞ、幽玄町に帰ろう!」
「起きろ息吹!お前は息吹なんかじゃねえ!息吹の身体から出て行け!」
「息吹ー!」
胸元から式神を取り出した晴明は、童子に姿を変化させて道長を建物の中へ連れて行かせると、静かに息吹に声をかけた。
「息吹…運命に負けてはならぬ。そなたは十六夜と夫婦になって幽玄町で暮らすのだろう?その想いを遂げずに死ぬつもりなのかい?」
「…夫婦に…!?」
ざわざわと百鬼がざわめき、皆が主さまを見つめた。
主さまは否定せずにただ黙って息吹を見つめていて、雪男は激しい衝動を受けながらも…その事実を呑み込んだ。
「そっか…やっぱり…そっか…」
「…雪男」
「や、わかってたんだ。うん…俺なんか眼中にないって知ってた。主さま…息吹を幸せにしてやってくれよな」
「…?雪男?お前…」
『ふふふ、愛されているな。だがもうどうにもならぬ。この身体はすごい…力に溢れ、漲っておる。さあ、暴れようぞ』
息吹が口の中で何かを唱えて腕を振り下ろすと、一瞬にして庭と建物の屋根が炎に包まれた。
殺戮の時。
『息吹という娘は我の中で眠っている。もう起きることもなければ、このまま痛みもなく死ぬだろう。我は我に課せられた任務を遂行する。さあ、行くぞ』
「息吹…起きろ。俺が来たぞ。今すぐ起きるんだ」
もしかしたら声が届くかもしれない――
一縷の望みを懸けて息吹に呼びかけたが、赤銅色の瞳をして妖艶な空気を纏った息吹は口角を吊り上げて笑った。
『声は届かぬ。この娘を好いているのだな?舎脂に似ているので我も心が痛むが、娘の意識はもう戻らぬだろう』
晴明は階で倒れている道長を抱き起しながら息吹を注視した。
完全に意識も身体も乗っ取られていて、主さまの声すら届かない。
禍々しく吊り上った唇はとてもいつもの息吹とは思えず、晴明は唇に人差し指と中指をあてて術を唱えると、護摩壇に張られた結界に突き刺した。
「解!」
閃光が炸裂して結界が弾け飛ぶと、主さまの回りには一気に百鬼が集まって次々に息吹に声をかけた。
「息吹ー!俺たちが来たぞ、幽玄町に帰ろう!」
「起きろ息吹!お前は息吹なんかじゃねえ!息吹の身体から出て行け!」
「息吹ー!」
胸元から式神を取り出した晴明は、童子に姿を変化させて道長を建物の中へ連れて行かせると、静かに息吹に声をかけた。
「息吹…運命に負けてはならぬ。そなたは十六夜と夫婦になって幽玄町で暮らすのだろう?その想いを遂げずに死ぬつもりなのかい?」
「…夫婦に…!?」
ざわざわと百鬼がざわめき、皆が主さまを見つめた。
主さまは否定せずにただ黙って息吹を見つめていて、雪男は激しい衝動を受けながらも…その事実を呑み込んだ。
「そっか…やっぱり…そっか…」
「…雪男」
「や、わかってたんだ。うん…俺なんか眼中にないって知ってた。主さま…息吹を幸せにしてやってくれよな」
「…?雪男?お前…」
『ふふふ、愛されているな。だがもうどうにもならぬ。この身体はすごい…力に溢れ、漲っておる。さあ、暴れようぞ』
息吹が口の中で何かを唱えて腕を振り下ろすと、一瞬にして庭と建物の屋根が炎に包まれた。
殺戮の時。

