主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

銀の意図が読めずに瞳を細めた主さまは、いつになく真面目な顔をしている銀と対峙して次の言葉を待った。


「お前と百鬼夜行の主の座をかけて争ったのは水に流してもらいたい。お前のために働く。だから入れてくれ」


「…お前と契約する気はない。どれだけの数お前に百鬼を殺されたと思っている?笑わせるな」


「いや、本気だ。もう逃げ回りたくないし、俺は…この子の傍に居てやりたい」


主さまは目を見張り、銀の膝の上で銀に小さな手を伸ばしている赤子を見遣った。


…さすがは晴明と同じ血が流れているというか…

息吹にしろこの赤子にしろ、小さなものを拾って育てなければならない運命なのか、銀は至極真実を語っているように見えた。


「…ということは?百鬼夜行に出ている間その子はどうする?」


「山姫や息吹が面倒を見てくれるだろう?夜以外は俺が面倒を見る。…なんだかこの子に愛着を持ってしまったんだ。だから俺が育てる」


いつもはぴょこぴょこふさふさ揺れている尻尾や耳はぴたりと動きを止めていて、真意を量って銀を見つめていると、晴明が噴き出した。


「まあいいではないか十六夜。百鬼の契約を結び、それを反故にした場合…死ぬまで苦しむ呪いが降りかかる。罰はそれでよい。百鬼に加わる力は十分にあるのだ、力強いではないか」


「…次に俺を裏切ったら絶対許さない。晴明、小刀を」


――晴明から手渡された小刀で親指を傷つけた主さまは銀に小刀を渡し、銀も同じように親指を傷つけた。

じわりと湧いてくる血を見つめながら、互いの傷ついた親指を重ねて瞳を閉じた。


「百鬼に加わることを許す。盟約に従い、生涯の忠実をここに誓え」


「盟約に従い、誓う」


主さまと銀の回りに鬼火が飛び交い、晴明が見守る中互いの血がついた親指をぺろりと舐めると、銀の身体が青白く発光した。


「おお…、これは、すごい…!」


「百鬼に加われば力が増大する。だが俺に牙を剥くことは許されない。その牙、丸く砥いで飼い馴らしてやる」


「お前のために働こう。取り急ぎまずは息吹の救出に加わる。暴れてもいいんだな?」


「空海を殺せ。いや、首は俺が獲る」


夜が待ち遠しく、主さまを焦らした。