主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「元気だけが取り柄のお前が寝込むなんて驚きだよな」


「雪ちゃんひどいよっ、私は雪ちゃんたちと違って人なんだから、病気くらいするもん」


…本当は戻ってきた主さまから事情は聴いていたが…


鬼八の時と同様また息吹が狙われるのにはきっと理由がある。

息吹はもしかしたら…

もしかしたら、人ではないのでは…と期待してしまう。


「ごめんって。そういえばあの相模と萌っていう奴ら、ここからいつ出て行くんだ?あいつらがここに居るとお前が幽玄町に来ないからみんな不満がってるぜ」


「私のせいで相模が怪我しちゃったんだから治るまでは傍に居なきゃ。…ねえねえ雪ちゃん、母様の様子はどう?」


「山姫?よくわかんねえけど、お前の代わりだと言わんばかりに晴明が毎日やって来てさ、鬱陶しがってるぽいけど」


「ふふふ、母様ったらまた強がっちゃって。雪ちゃんから見てあの2人ってどう?くっつきそう?」


しきりに山姫と晴明をくっつけたがる息吹の表情が明るくなったので、それを嬉しく思いながら雪男は息吹の話に乗っかって顎に手を添えて考えた。


「うーん…まあ、晴明が夜這いくらいすれば落ちそうだけど。人って…その…夜這いが恋の成就なんだろ?」


「えっ!?わ、わかんない…。そ、そうなの?」


「お、俺は半妖だし人の事情はほとんどわかんねえよ。俺が聴いてんのに聞き返すなよなっ」


2人してもじもじしてしまいつつ、少し身体がきつくなった息吹が横になったので、雪男は残暑が厳しく部屋に籠もる熱気を追い出すように天井に息を吹きかけると、涼しい風が起こって息吹を涼しませた。


「ありがと雪ちゃん。きっともうすぐ元気になるから…。主さまに空海さんに乱暴なことしないで、って伝えてもらえる?」


「…ああ、わかった。でも俺が言っても聞かないと思うけどなあ」


「大丈夫だよ、雪ちゃんは主さまの精鋭部隊なんだから。ねえ…眠りたくないの。傍に居てくれる?」


――眠ってしまうとまた空海が夢に現れるかもしれない――

空海のことは嫌いではないが、晴明の言うように何かしらの術をかけられようとしているのならば…それは同意していないので嫌だと思う。


「ん。手握っててやる」


ひんやりとした雪男の手は息吹の体温で火傷しそうになっていたが、それでも構わないと思った。