主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

息吹が寝込んだことで動揺した相模は、度々息吹の部屋を訪れてそわそわとしていた。


その日は晴明から“難しい術を使うから部屋には来るな”と申しつけられていたので、大人しく離れで萌と2人で待っていたのだが…

終わったと思ったら息吹が寝込んだ。

それを晴明に問い質してみたら曖昧に口を濁し、話を変えられたので、恐らく…自分たちのせいなのだろう、と察した。


「息吹、これ薬湯。晴明様が数時間起きに飲めってさ」


「うん、ありがと」


重たそうに身体を起こした息吹の背中を支えてやり、薬湯を飲んでいるのを見つめていると、息吹の手に紫色の紐のようなものが握られていた。

首を傾けてそれが何なのか見ていると、息吹が少し照れたように笑ってそれを見せてくれた。


「これ、主さ……十六夜さんのなの。“自分の代わりに”って置いて行ってくれたみたい」


「…息吹の傍にずっと居られないのか?」


「うん、忙しい人だからそんなに長い時間会えないの。ね、いい匂いがするでしょ?」


顔を近付けて鼻を鳴らしてみると、確かに良い香りがして、あの十六夜という男が身分の高い男なのだと知った。


「息吹の…お婿さん?」


「そう、私は十六夜さんのお嫁さんになるの。まだちょっと先の話だけど、今は花嫁修業中なんだよ。だから相模に沢山ご飯作ってあげるね。実験台だけど」


「ひどい!でも…うん、ありがと」


うふふと声を上げて笑い合った時、急に空気がひんやりした気がして相模が身を震わせた。

息吹も来訪者に気付いて相模の肩に羽織をかけてやった時、襖が開いて顔を出したのは…雪男だった。


「雪ちゃん!」


「息吹…寝込んだって聴いたから…みんなここに来たがったけど俺が代表で来た」


――雪よりも真白き肌に目も覚めるような青い髪と青い瞳をした明らかに異国の出の男…いや、この美しさは妖か――

相模が緊張していると、いずれ全てを話さなければならないと思っていた息吹だったが、今は長く話しているのもつらく、相模の手を握った。


「ちょっと2人にしてもらっていい?」


「あ、うん…、息吹、無理するなよ」


「ありがと」


襖が閉まったのを確認した雪男が傍らに座り、久々に見た息吹の弱り果てた姿を見て唇を噛み締めた。


恐らく空海のせいだ。

あの白昼夢が…未だに頭の隅に居座り続けていた。